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クロサカタツヤ : AIバブルの不都合な真実

· 約67分

要旨

AI

AIバブルの不都合な真実

このテキストは、TBS CROSS DIG with BloombergのYouTubeチャンネルで公開された動画「【ChatGPT“大赤字”が招く悪夢】『AIバブルの不都合な真実』著者・クロサカタツヤ/狂乱のテック株、コロナマネー切れで宴は終わる/儲からないまま、データ枯渇と電力危機で限界を迎える【1on1】」のトランスクリプトの一部です。

著者の‌‌黒坂達也氏‌‌が、現在の‌‌AIブームをバブル‌‌と捉え、その‌‌崩壊のシナリオ‌‌と‌‌日本が取るべき対策‌‌について議論しています。黒坂氏は、‌‌期待と性能のギャップ‌‌、‌‌過剰な資金流入‌‌、そして‌‌クリエイターとの摩擦‌‌をバブルの主な要因として指摘しています。

また、バブル崩壊を加速させるメカニズムとして‌‌金融‌‌、‌‌技術‌‌、‌‌政策‌‌、‌‌社会倫理‌‌の側面から考察し、‌‌日本が「失われた30年」を繰り返さない‌‌ための戦略について論じています。

目次

  1. 要旨
  2. クロサカタツヤとは…
  3. AIバブルの不都合な真実:崩壊シナリオと日本の生存戦略
    1. エグゼクティブサマリー
    2. 1. AIバブルの正体:3つの根拠
    3. 2. バブル崩壊のシナリオ
    4. 3. 日本の生存戦略:過去の失敗を乗り越えて
  4. なぜ今「AIバブル」なのか?専門家が語る3つのシンプルな理由
    1. 序文
    2. 1. 理由①:私たちの「期待」とAIの「性能」の大きなズレ
    3. 2. 理由②:行き場を失った「お金」の過剰な流入
    4. 3. 理由③:「コンテンツ」を生み出す人々との深刻な摩擦
    5. 4. まとめ:バブルの先を見据えて、私たちが考えるべきこと
  5. AIバブルの構造と日本企業が取るべき戦略的針路
    1. 序文:なぜ今、「AIバブル」を直視すべきなのか
    2. 1. AIバブルの正体:熱狂を支える3つの構造的要因
    3. 2. バブル崩壊の予兆:加速させる4つのメカニズム
    4. 3. シナリオ分析:バブル崩壊後の世界で何が起きるか
    5. 4. 日本企業への戦略的提言:失われた30年を繰り返さないために
    6. 結論:バブルの先にある未来を創造するために
  6. 情報源

クロサカタツヤとは…

クロサカ タツヤ 株式会社企代表取締役 ジョージタウン大学客員研究員 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授 1999年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年株式会社企を設立。通信・放送セクターの経営戦略や事業開発などのコンサルティングを行うほか、総務省、経済産業省、OECD(経済協力開発機構)などの政府委員を務め、5G、AI、IoT、データエコノミー等の政策立案を支援。2016年から慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。2024年からジョージタウン大学 客員研究員を兼務。 主な著書に『AIバブルの不都合な真実』(日経BP)、『5Gでビジネスはどう変わるのか』(日経BP)。

AIバブルの不都合な真実:崩壊シナリオと日本の生存戦略

AI

エグゼクティブサマリー

現在のAIブームは、OpenAIのサム・アルトマンCEO自身も認める「バブル」状態にある。このバブルはコロナ禍の過剰流動性を最後の燃料として膨張しているが、その実態は「期待と性能のギャップ」「過剰な資金流入」「クリエイターとの摩擦」という3つの脆弱性を内包している。

バブルの崩壊は、金融(金利上昇)、技術(データ枯渇とインフラ危機)、政策(政府規制)、社会・倫理(不祥事や情報漏洩)の4つのメカニズムによって加速され、偽情報の蔓延から始まり、最終的には一部の巨大テック企業(OpenAI、Googleなど)のみが生き残る市場の寡占化(「結」の段階)へと至るシナリオが予測される。

日本は、過去の不動産バブルやドットコムバブルで投資を引き揚げた結果、「失われた30年」やグローバルなネット企業の不在を招いた失敗を繰り返してはならない。バブル崩壊を前提とし、勝ち残る企業との付き合い方や、国産AI開発の必要性を冷静に見極める戦略的思考が不可欠である。特に、日本の強みである「ヒューマンタッチ(人間中心の心地よさ)」と「効率性(データセンター運用技術など)」に活路を見出し、新たな市場で主導権を握ることが、AI時代の生存戦略の鍵となる。

1. AIバブルの正体:3つの根拠

現在のAIブームがバブルであることは、3つの主要な理由によって裏付けられている。これらの要因は相互に影響し合い、市場の熱狂と脆弱性を同時に生み出している。

1.1. 期待された性能とのギャップ

AIに対する期待と実際の性能の間には、埋めがたいギャップが存在する。

  • 過剰な期待と現実: 多くの人々はAIが人間を超える「シンギュラリティ」を期待しているが、AI研究者の間では「AIそのものが人間を超えることはまずない」との見方が一般的である。技術的な限界に加え、評価軸である人間自身が「まだ超えていない」「欲しかったAIはこれじゃない」とゴールポストを動かし続けるため、期待が満たされることはない。
  • 限定的な実用能力: 現実的に現在の生成AIが得意とするのは、「要約」「翻訳」「入力インターフェースの整理」といった領域に限定される。汎用性を謳いながらも、個々のユーザーが真に求める具体的なタスクを完璧にこなすレベルには達していない。
  • 「厳滅期」への突入: 期待外れの結果として、実証実験(PoC)を開始したものの、「期待した性能が出ない」としてプロジェクトを中止する企業が増加している。これは、ブームが「厳滅期」に突入しつつある兆候と言える。

黒坂達也氏の発言: 「(AIは)何でもできるからこそ、自分が求めていることをしっかり分からないまま使い始めて、『すごいすごい』と乗ってしまい、気づくと『あれ、何したかったんだっけ』となる。勝手に期待して勝手にがっかりしている、そんな状況です。」

1.2. 過剰な資金流入

コロナ禍で生じた世界的な過剰流動性(ジャブジャブのお金)が、AI分野に集中投資されている。

  • 偏在するベンチャー投資: 米国のベンチャーキャピタル投資額のうち、実に64.1%がAI関連に集中している。これは多様な種をまくべきベンチャー投資の本質から逸脱しており、「AIをやっている」とアピールしないと資金調達できない歪んだ状況を生んでいる。投資家側も、投資の言い訳として「スライドにAIと書いてくれ」と要求するほどである。
  • ドットコムバブルとの類似: NVIDIAの時価総額が4兆ドルを超え、PR(株価収益率)が50倍前後に達するなど、特定企業の株価が異常な高騰を見せている。これは、マグニフィセント・セブンなどのごく一部の銘柄に資金が集中する「チキンレース」の様相を呈しており、ドットコムバブルの構造と酷似している。背景には、乗り遅れることへの恐怖(FOMO: Fear of Missing Out)がある。
  • ビジネスモデルの不在: 巨額の資金が流入する一方で、多くのAI企業は持続可能なビジネスモデルを確立できていない。特にOpenAIは、Googleの広告モデルのような明確な収益構造を持たず、そのサービスがなぜ無料で提供できるのかが不透明なまま、巨額の設備投資を続けている。

1.3. クリエイターとの摩擦

AI、特に大規模言語モデル(LLM)の成長は、学習データの量と質に依存するが、そのデータの確保を巡って深刻な問題が生じている。

  • データの枯渇と無断利用: LLMのパラメータ競争が激化する中で、学習に必要な高品質なデータが枯渇し始めている(「2026年問題」)。このため、AI開発企業は著作権などの権利処理を無視し、インターネット上から無断でデータを収集(スクレイピング)しているのが実態である。
  • 訴訟と交渉の開始: この状況に対し、メディア企業を中心とするコンテンツホルダーが損害賠償を求める訴訟を起こしている。これは単なる賠償請求ではなく、将来のライセンス契約やレベニューシェアに向けた「交渉の出発点」としての意味合いが強い。
  • AI企業の強気な姿勢: OpenAIは「使われたくないならオプトアウトしてくれ」と表明するなど、極めて強気な姿勢を崩していない。これは、自社のプラットフォーム以外にコンテンツを輝かせる場所はないという優位性に基づいた交渉術であり、今後もこの対立構造は続くと見られる。

黒坂達也氏の発言: 「感情論的に言うと、人様の物を持ってって『これで商売して上がりをちょっと分けてやるから、お前ら文句言うなよ』と言ってるわけですよね。」

2. バブル崩壊のシナリオ

AI企業の多くは、売上は立ち始めているものの、それを遥かに上回る赤字と過剰な設備投資を抱えている。この脆弱な財務基盤の上で、バブル崩壊を加速させる複数の要因が顕在化しつつある。

2.1. 崩壊を加速させる4つのメカニズム

分類メカニズム詳細
金融資金調達の限界世界的な長期金利の上昇により、これまでのような低利での負債(デット)による資金調達が困難になっている。ビジネスモデルが確立していない企業は、資金繰りに行き詰まる可能性が高い。
技術成長の頭打ちとインフラ不足データ枯渇: デジタル化できる情報が限界に近づき(2026年問題)、AIの性能向上が頭打ちになる。
インフラ危機: データセンターの乱立が深刻な電力・水資源の不足を引き起こしている。米国では、データセンターの電力を賄うために原子力発電所の新設が議論されるほど事態は逼迫している。
政策政府による規制強化国家安全保障: AIへの社会的な依存度が高まるにつれ、各国政府は国民保護の観点から規制を強化する。特に米中対立を背景に、データ利用や技術移転への制限が厳格化される。
人材問題: 米国のAI人材は中国人・インド人に大きく依存しているが、H-1Bビザの厳格化などにより、人材確保が困難になる可能性がある。
社会・倫理不信感の増大著作権侵害: クリエイターとの摩擦が激化し、社会的な批判が高まる。
不祥事: AIスタートアップによる粉飾決算などの不祥事(例:オルツ社)が発覚し、市場全体の信頼が失墜する。
情報漏洩: 従業員が個人でAIを利用する「シャドーAI」が原因で、企業の機密情報や個人情報が漏洩するインシデントが多発し、AI利用への警戒感が高まる。

2.2. 崩壊のプロセス:「起承転結」

バブル崩壊は、以下の4段階のシナリオで進行すると予測される。

  1. 起:偽情報の蔓延と規制の始まり AIが生成する偽情報やなりすましが深刻な社会問題となり、「AIの使い方は規制すべき」という世論が形成される。AI利用に最初のブレーキがかかる。
  2. 承:シャドーAIによるインシデント多発 業務効率化のために従業員が無断で利用する「シャドーAI」から情報漏洩事件が頻発。企業はAI利用を厳しく制限せざるを得なくなり、AIのビジネス活用が停滞する。
  3. 転:AIスタートアップの淘汰 社会的な逆風と利用制限により、多くのAIスタートアップが事業機会を失い、資金繰りが悪化。次々と倒産し、バブルが本格的に崩壊する。
  4. 結:巨大企業による市場寡占 混乱の末、資金力と技術力を持つOpenAIやGoogleといった巨大テック企業だけが生き残る。彼らは荒野となった市場を独占し、「我々以外に信頼できるAIはない」という状況を作り出す。

2.3. 崩壊後の世界:巨大テック企業による寡占

バブル崩壊は、全てがなくなる「焦土化」を意味しない。ドットコムバブル後にGoogleやAmazonが勝ち残ったように、AIバブル崩壊後も一部の強者が市場を支配する「勝ち残り」のゲームとなる。生き残った企業は、競合が消えた市場で圧倒的な影響力を行使することになるだろう。

3. 日本の生存戦略:過去の失敗を乗り越えて

日本は、AIバブルの崩壊を単なる脅威として捉えるのではなく、過去の失敗を教訓として戦略的に備えることで、新たな機会を掴むことができる。

3.1. 回避すべき「失われた30年 AI版」

  • 不動産バブルの教訓: 1990年代の不動産バブル崩壊後、日本は「お金をかけることは悪」という風潮に陥り、経済が30年間停滞した。AIバブル崩壊後に「AIはもういらない」という空気が生まれれば、日本は世界の競争から完全に脱落する「失われた30年 AI版」を招きかねない。
  • ドットコムバブルの教訓: 2000年前後のドットコムバブルの際に日本が投資から手を引いたことが、「なぜ日本からGoogleが生まれなかったのか」という問いに対する一つの答えである。今回は、バブルが弾けても足を止めず、必要な投資と開発を継続する覚悟が求められる。

3.2. バブル崩壊後を見据えた戦略的思考

  • 勝ち残り企業との距離感: バブル崩壊後に誰が、どのような技術で勝ち残るのかを正確に見通し、その企業とどう付き合うか(提携するのか、距離を置くのか)を判断する必要がある。
  • 国産(ソブリン)AIの重要性: 現在のLLMの最大の課題は、学習データが英語と中国語に偏っていることである。日本語のデータに基づいたモデルの開発は、時間とコストがかかっても、日本の文化やビジネスコンテクストを守る上で極めて重要である。

3.3. 日本企業が持つ2つの勝機

LLMの基礎モデル開発で米国に追いつくことは困難かもしれないが、日本には独自の強みを活かせる領域が存在する。

  1. ヒューマンタッチ:日常生活に根差したAI
  • AI開発で出遅れているAppleが、スマートフォンやウェアラブルデバイスといった「日常生活に最も近い」領域で巻き返しを図ろうとしているように、日本企業もその得意分野で勝負できる。
  • 日本の製品やサービスに共通する「人間にとっての心地よさ」や細やかな配慮(ヒューマンタッチ)は、デジタル世界で十分に表現しきれていない。この感性をAIと融合させ、日常生活に寄り添う価値を提供できれば、グローバル市場でも独自の地位を築ける可能性がある。
  1. 効率性:データセンターの運用技術
  • 米国がデータセンターの電力確保のために「原発を建てればよい」という非効率な議論に陥っているのに対し、日本は省エネルギーや効率的な運用に関する高度な技術とノウハウを蓄積している。
  • このデータセンターの運用効率化技術は、世界のインフラ危機を解決する鍵となりうる。この「切り札」を安売りせず、戦略的に高値で提供していくことが重要である。

黒坂達也氏の発言: 「バブルで足を止めない。やらなきゃいけないことは、時間とお金がかかってもきっちりやる。…アメリカも今正直、現実問題として原発立てられないんで注目してます。日本が持っているそういったデータセンターやAIファシリティの効率的な運用について。…これはチャンスであると同時に、できるだけ高値で売らないとダメです。」

なぜ今「AIバブル」なのか?専門家が語る3つのシンプルな理由

AI

序文

ChatGPTの登場以来、私たちの日常やビジネスの世界はAIの話題で持ちきりです。NVIDIAのような関連企業の株価は驚異的な高騰を見せ、まさに世界中がAIを巡る熱狂の渦にいます。

しかし、このブームの裏側で、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏をはじめ、多くの専門家や業界関係者が、現在の状況を「バブル」であると公言し始めています。

では、なぜ現在のAIブームは「バブル」なのでしょうか?この記事では、その背景にある3つの大きな理由を、専門家の視点からシンプルに解き明かしていきます。これは単なる学術的な分析ではありません。バブルの本質を理解することは、日本が過去のネットバブル崩壊の失敗を繰り返し、AI時代に再び「失われた30年」を迎えることを避けるために不可欠な、戦略的な思考なのです。

1. 理由①:私たちの「期待」とAIの「性能」の大きなズレ

AIバブルの最初の理由は、私たちがAIに抱く壮大な期待と、AIが実際にできることの間に存在する、埋めがたいギャップです。

1-1. 期待は「人間超え」、現実は「便利な道具」

私たちは心のどこかで、AIが人間を超える「シンギュラリティ」のような出来事を期待しています。しかし、多くのAI研究者は「AIそのものが人間を超えることは、まずない」と考えています。

その理由は2つあります。1つは技術的な限界ですが、専門家がより重要だと指摘するのはもう1つの理由、つまり‌‌「人間側がゴールポストを動かしてしまう」‌‌ことです。

AIがどんなに進化しても、人間は「まだ超えていない」「私が本当に欲しかったAIはこれじゃなかった」と、無意識に評価基準を変えてしまいます。期待が壮大すぎるあまり、現実のAIの進化を正しく評価できず、勝手に期待し、勝手にがっかりしているのです。

1-2. 今のAIができること、できないこと

では、現在の生成AIが本当に得意とすることは何でしょうか?実用的なレベルでは、主に以下の3つに集約されると考えられています。

  • 要約: 長い文章や会議の内容を短くまとめる。
  • 翻訳: ある言語を別の言語へ高精度で変換する。
  • 入力インターフェースの整理: 曖昧な指示を整理し、コンピューターが理解しやすい形に変換する。

これらは非常に便利ですが、「何でもできる魔法の杖」という期待とは大きな隔たりがあります。

1-3. 【本質】なぜ「期待とのズレ」がバブルにつながるのか?

この「期待と性能のギャップ」こそが、バブルの一因です。

「AIなら何でもできるはずだ」という過剰な期待から、多くの企業が実証実験(PoC)に乗り出します。しかし、実際に試してみると「自分たちが本当に解決したかった課題は、今のAIでは解決できない」という現実に直面し、プロジェクトを中止してしまうケースが増えています。

このように、実態が伴わないまま期待だけが先行し、多くの投資やプロジェクトが生まれては消えていく不安定な状況が、現在のAIブームの土台となっており、これが「バブル」と呼ばれる本質的な理由の一つなのです。

この実態を伴わない期待先行の状況を、さらに危険なレベルまで加速させているのが、市場に溢れるお金の流れです。この過剰な資金こそが、企業に非現実的な期待を追い続けさせる原動力となっているのです。

2. 理由②:行き場を失った「お金」の過剰な流入

バブルの2つ目の理由は、行き場を失った巨額の資金がAI分野に異常なほど集中していることです。

2-1. ジャブジャブのお金がAIに集中

コロナ禍において、世界経済を支えるために市場には大量の資金が供給されました。この「ジャブジャブのお金」が、次の大きな成長分野を探し求め、現在AIというテーマに一極集中しています。

その偏りは、米国のベンチャーキャピタル(VC)投資のデータに顕著に表れています。

米国のベンチャーキャピタル投資の実に64%がAI関連に集中している

これは、新しいビジネスの種を多方面に蒔くはずのベンチャー投資が、健全な状態ではないことを示しています。

2-2. 「AIと書けば金が集まる」異常な状態

投資の集中は、スタートアップのエコシステムに歪みを生んでいます。まるで「絶対に売れるから、皆でコシヒカリだけを作ろう」と言っているようなもので、本来多様であるべきスタートアップが、皆同じ方向を向かざるを得ない状況です。

具体的には、「企画書のスライドに『AI』という文字を書いておかないと、投資家から見向きもされない」という異常事態が起きています。さらに深刻なのは、投資家側が、自らの投資を正当化する「言い訳(エクスキューズ)」として、AIと無関係なスタートアップにすら「企画書にAIと書いてくれないか」と頼むケースまであるのです。

2-3. 【本質】なぜ「過剰な資金」がバブルにつながるのか?

この資金流入が、バブルの核心的な症状です。

企業の価値が、実際の需要や堅実なビジネスモデルではなく、「今、お金を集めておかなければ乗り遅れる」という焦り(FOMO:Fear of Missing Out)や投資家の都合によって、実態以上に吊り上げられています。

合理的な成長計画に基づいた投資ではなく、「借りられるうちに借りて、投資競争に勝つ」という考え方が優先されているのです。これは、過去のあらゆるバブルでみられた典型的な特徴と言えます。

しかし、お金と技術だけではAIは動きません。そして、理由②の過剰な資金がもたらすプレッシャーが、AIの根幹を支える「データ」を巡るバブル的な不安定さを生み出しています。

3. 理由③:「コンテンツ」を生み出す人々との深刻な摩擦

バブルを形成する3つ目の理由は、AIの「燃料」である学習データを巡る、コンテンツ制作者(クリエイター)との深刻な対立です。

3-1. AIの燃料「学習データ」が足りない

LLM(大規模言語モデル)をはじめとする現代のAIは、学習のための膨大な「データ」がなければ機能しません。しかし、AIの性能競争が激化する中で、その学習データが枯渇し始めているという根本的な問題に直面しています。

そこでAI企業は、インターネット上に存在するニュース記事、ブログ、画像、動画といった著作物を、権利者の許可なく大規模に収集(スクレイピング)するという手段を取りました。これが、クリエイター側との大きな摩擦を生んでいます。

3-2. AI企業とクリエイターの対立構造

このデータ問題を巡る両者の主張は、真っ向から対立しています。

立場主張
AI企業側「自分たちの技術がコンテンツに新たな価値を与える。使われたくなければオプトアウト(利用拒否)すればいい」という、極めて高圧的な姿勢。Soraを巡る騒動の後、サム・アルトマン氏がブログで収益分配や管理機能の提供を提案したように、「お金で解決しよう」という傲慢とも言える態度が顕著です。
クリエイター側「自分たちのコンテンツは資産であり、無断使用は許されない。訴訟は単なる損害賠償請求ではなく、AI企業に正当な対価を支払うビジネスモデルを構築させるための‌‌『交渉の出発点』‌‌である」という考え方。対等なパートナーシップを求めています。

3-3. 【本質】なぜ「クリエイターとの摩擦」がバブルにつながるのか?

AIの性能を支える最も重要な資源である‌‌「データ」の価値や利用ルールが、社会的に全く定まっていない‌‌。これが、バブルと呼ばれる3つ目の理由です。

AIの心臓部ともいえるデータの権利問題という根本的な課題が未解決のまま、その上に巨額の投資と壮大な期待が積み上がっているのです。これは、AI業界全体が非常に脆く、不安定な土台の上にあることを意味しており、いつ崩れてもおかしくないバブル的な状況と言わざるを得ません。

ここまで見てきた3つの理由は、現在のAIブームが持つ危うさを示しています。では、私たちはこの状況をどう捉え、バブルの先を見据えるべきなのでしょうか。

4. まとめ:バブルの先を見据えて、私たちが考えるべきこと

4-1. AIバブルの3つの理由(再確認)

この記事で解説した「AIバブル」の3つの理由は、以下の通りです。

  1. 期待と性能のギャップ: 人々の過剰な期待と、実際のAI技術のできることの間に大きな差がある。
  2. 過剰な資金流入: 実態や需要に見合わない巨額のお金が、流行りという理由だけでAI分野に流れ込んでいる。
  3. クリエイターとの摩擦: AIの根幹である学習データの権利問題が未解決で、業界の土台が非常に不安定である。

4-2. 本当に恐れるべきは「バブル崩壊の後」

専門家が最も警鐘を鳴らしているのは、「バブルが弾けること」そのものではありません。本当に恐れるべきは、‌‌「バブル崩壊後に、日本がAI分野から完全に手を引いてしまうこと」‌‌です。

私たちは過去、2000年代のネットバブルが崩壊した際に、リスクを恐れて投資から「完全に手を引いてしまった」結果、Googleのような世界的なプラットフォーマーを生み出せなかったという苦い経験があります。

もし今回も同じ過ちを犯せば、AI分野で再び「失われた30年」を迎えてしまうかもしれません。

4-3. 結論:バブルの先にある日本の勝機

AIバブルの理由を正しく理解することは、現在の熱狂を冷静に見つめ、浮足立つことなくAIと賢く付き合っていくために不可欠です。ブームはいつか去りますが、その先にも日本の勝機は確かに存在します。専門家は、特に2つの具体的な道筋を提示しています。

一つは、‌‌「"ヒューマンタッチ"なAI」‌‌の領域です。現在、巨大テック企業の中でAppleはAI分野で出遅れています。しかし、彼らは我々の日常生活に最も近いデバイスを握っています。日本企業が持つ「人間にとっての心地よさ」への強いこだわりは、生活に密着した、本当に意味のあるAIサービスを生み出す上で大きな武器となり得ます。

もう一つは、‌‌「データセンターの効率性」‌‌です。アメリカでは電力不足に対し「原発を建てればいい」という発想になりがちですが、日本企業は限られたリソースで効率的に運用するノウハウに長けています。これは、世界中のデータセンターが直面する課題を解決する、非常に価値の高い技術となり得ます。

熱狂に踊らされることなく、バブルの先にある本質的な価値を見極め、日本の強みを活かせる領域に的を絞ること。それこそが、ブームが去った後も社会のためにAIを活用していく、最も賢明な姿勢なのです。

AIバブルの構造と日本企業が取るべき戦略的針路

AI

序文:なぜ今、「AIバブル」を直視すべきなのか

現在のAIを巡る熱狂は、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏自身も公に認める「バブル」の様相を呈している。本レポートは、この現状認識を分析の出発点とする。

かつて日本が経験した不動産バブルは、その崩壊後、「失われた30年」と呼ばれる長期的な経済停滞を招いた。今回のAIブームで同じ過ちを繰り返し、‌‌AI版「失われた30年」‌‌を招くことだけは絶対に避けなければならない。この強い問題意識こそが、本稿を執筆する最大の動機である。

本稿の目的は、単に熱狂を警告することではない。AIバブルを支える構造を冷静に解明し、その崩壊がもたらすであろう未来を具体的に予測する。その上で、崩壊後の世界で日本企業が単なる敗者ではなく、新たな価値創造の主役として持続的成長を遂げるための、明確かつ実行可能な戦略を提言する。今こそ、バブルの熱狂から一歩引いて、その先にある未来を見据える時である。

1. AIバブルの正体:熱狂を支える3つの構造的要因

現在のAIブームは、単なる技術革新の波として片付けることはできない。その背後には、熱狂を増幅させ、持続不可能な期待を煽る特定の構造的要因が存在する。これらが相互に作用することで、現在の「バブル」は形成されている。本セクションでは、このバブルを支える3つの主要因を深掘りし、その本質に迫る。

1.1. 期待と性能の乖離:動き続けるゴールポスト

AIバブルの根底には、AIに対する社会的な期待と、現実の技術性能との間に存在する巨大なギャップがある。究極的には、多くの人々が「シンギュラリティ」、すなわちAIが人間を超えることを期待している。しかし、AI研究者の多くは「AIそのものが人間を超えていくことはまずない」と冷静な見解を示す。

このギャップが埋まらない最大の理由は、評価者である‌‌人間自身が「ゴールポストを動かしてしまう」からだ。AIがあるタスクを達成しても、利用者の期待が「曖昧で、自身の状況に依存するもの」‌‌であるため、「私が欲しかったAIはこれじゃない」と新たな要求を掲げてしまう。

現状、生成AIが実用レベルで得意とするのは、要約、翻訳、入力インターフェースの整理といった特定の領域に限られる。多くの企業が壮大な期待を抱いて実証実験(PoC)を開始したものの、「期待した性能が出ない」としてプロジェクトを中止するケースが増加しており、これは市場が「幻滅期」の入り口に立っている兆候と言えるだろう。この期待先行の状態こそが、バブルの脆弱性を象徴している。

1.2. 過剰な資金流入:コロナマネーがもたらした歪み

コロナ禍における世界的な金融緩和は、市場に前例のない規模の過剰流動性、いわゆる「ジャブジャブのお金」を生み出した。その潤沢な資金が、現在AI分野に集中的に流れ込んでいる。それはまさに、「もらえるものは全部もらっておけ」という熱狂的な状態だ。

その結果、市場には深刻な歪みが生じている。

  • スタートアップ生態系の偏り: 米国のベンチャーキャピタル(VC)投資額の実に64%がAI関連に集中している。これは多様な種をまくというVC本来の役割を逸脱し、全員で‌‌「コシヒカリだけを作ろうとしている」ような異常事態だ。VCがスタートアップに対し、「このスライドのどこかに10ポイントの文字でいいから『AI』と書いてくれないか」‌‌と頼むケースが横行しており、資金調達が技術的優位性ではなく、トレンド追従によって歪められている実態を物語っている。
  • 株式市場の極端な集中: NVIDIAの株価高騰に象徴されるように、市場全体の成長がごく一部の銘柄によって牽引されている。直近のデータでは、S&P 500の上昇分の70%を、わずか上位41銘柄が占めるという極端な集中が見られる。これは、投資家が「勝ち馬に乗りたい」一心で特定の銘柄に殺到する、ドットコムバブル期にも見られた‌‌「チキンレース」‌‌そのものであり、バブル崩壊が近いことを示唆している。

1.3. コンテンツホルダーとの摩擦:データ枯渇と権利問題

機械学習を基盤とする現代のAIにとって、教師データは生命線である。しかし、大規模言語モデル(LLM)開発競争の激化により、高品質なデータは枯渇し始めている。

このデータ不足を補うため、多くのAI企業はインターネット上から無許可でデータを収集(スクレイピング)した。これに対し、メディア企業やコンテンツホルダーは著作権侵害を理由に相次いで訴訟を起こしている。

しかし、これらの訴訟は単なる損害賠償請求に留まらない。むしろ、‌‌将来のビジネスモデルを巡る「交渉の出発点」としての意味合いが強い。AI企業の「上がりをちょっと分けてやるから文句を言うな」と言わんばかりの高圧的な態度に対し、コンテンツホルダーは自らのデータが価値の源泉であることを盾に、正当な対価を得るための交渉カードとして訴訟を利用している。この摩擦は、そろそろ「勝つ馬と負ける馬」‌‌を選別する必要があるという市場からの圧力であり、バブル崩壊後に誰が真の勝者となるかを決定づける重要な力学となっている。

これら3つの要因――期待と性能の乖離、過剰な資金、そしてデータ権利を巡る摩擦――は、相互に影響し合いながらAIバブルを膨らませている。しかしその内部では、同時に崩壊へのエネルギーが着実に蓄積されているのだ。

2. バブル崩壊の予兆:加速させる4つのメカニズム

いかなるバブルも永遠には続かない。現在のAIバブルも例外ではなく、その崩壊を不可避なものとし、さらに加速させる具体的なメカニズムがすでに作動し始めている。ここでは、金融、技術、政策、そして社会・倫理という4つの側面から、崩壊に至るプロセスを具体的に分析する。

2.1. 金融:低金利時代の終焉

AI分野における巨額の設備投資競争は、コロナ禍がもたらした歴史的な低金利環境によって支えられてきた。多くの企業は、エクイティだけでなく、むしろ返済負担の軽い‌‌デット・ファイナンス(借り入れ)‌‌によって資金を調達し、将来の収益性を度外視した投資を続けてきたのである。

しかし、その前提は崩れつつある。現在、日米ともに長期金利は上昇基調にあり、「借りられるうちに借りておこう」というフェーズは終わりを迎えようとしている。資金調達コストの上昇は、ビジネスモデルが未確立なAI関連事業への投資に急ブレーキをかけ、過剰投資の反動が一気に表面化するリスクを高めている。

2.2. 技術:成長の頭打ちとインフラの限界

AIの性能向上にも物理的な限界が見え始めている。

  • 学習データの枯渇(2026年問題): AIの性能を飛躍的に向上させてきた高品質なデジタルデータの供給が、2026年頃には限界に達すると予測されている。これ以上の性能向上には、アナログ世界からのデータ化など、これまでとは比較にならないコストと時間が必要となり、成長曲線は急速に鈍化する可能性がある。
  • インフラの制約: AI開発を支えるデータセンターの乱開発は、電力と冷却用の水資源という物理的なインフラの限界に直面している。この問題を解決するために、米国では‌‌「原発を新設すべき」‌‌という極端な議論が真剣になされるほど、状況は切迫している。インフラの制約は、AI開発のコストを劇的に押し上げ、バブルの維持を困難にする。

2.3. 政策:国家安全保障という名の規制強化

社会がAIに依存すればするほど、政府による規制強化は避けられない。特に、米中対立の激化を背景に、国家安全保障の観点からの規制が強力なブレーキとなる。データの越境移転や先端技術の輸出に対する制限は、これまで自由なインターネット空間で活動してきたAI企業の事業モデルを根底から揺るがす可能性がある。

さらに、米国のAI産業が抱える構造的な脆弱性も見逃せない。AI人材のピラミッドを見ると、次世代のアルゴリズムを構想するトップ層の科学者は中国系に、システムを支える優秀なオペレーション人材はインド系に大きく依存している。H-1Bビザ問題に代表されるような地政学的リスクや移民政策の変更といった外的ショックが発生した場合、米国のAI開発が急停止するリスクを内包しているのだ。

2.4. 社会・倫理:信頼を蝕む不祥事と著作権問題

「AI」という言葉を掲げるだけで巨額の資金が集まる現状は、モラルハザードの温床となる。実際、AIスタートアップ「オルツ」の研究開発費不正使用のような企業不祥事は、市場の信頼を大きく損なう。この問題の本質は、不正そのものよりも、監査法人を含め「周りの誰も止められなかった」というエコシステム全体の機能不全にあり、より根深い構造的問題を示唆している。

同時に、従業員が会社の許可なく個人でAIツールを利用する‌‌「シャドーAI」‌‌は、企業の営業秘密や個人情報が意図せず流出する温床となり得る。こうしたインシデントが大規模な社会問題に発展した時、人々の間に「やはりAIは怖い」という心理が広がり、AI技術の社会実装そのものに逆風が吹くことは想像に難くない。

これらの金融、技術、政策、社会・倫理という4つのメカニズムは、それぞれが独立して、また時には複合的に作用しながら、AIバブル崩壊へのカウントダウンを確実に進めている。

3. シナリオ分析:バブル崩壊後の世界で何が起きるか

バブルの崩壊は、すべての価値がゼロになる「無」を意味するわけではない。むしろ、それは市場の過熱が冷め、真の価値を持つプレイヤーが選別される市場再編のプロセスである。ここでは、「起承転結」のフレームワークを用い、バブル崩壊から新たな秩序が形成されるまでの一連のシナリオを具体的に描く。

  • 起:偽情報による混乱と規律の要請 AIが生成する巧妙な偽情報やなりすましが社会問題として深刻化する。多くの人々が「AIの野放図な利用は危険だ」と認識し始め、社会全体でAI利用に対する規律やルールを求める声が高まる。これが、市場に対する最初の引き締めとなる。
  • 承:シャドーAIによるインシデントと管理強化 業務効率化を目的として従業員が個人的に利用する「シャドーAI」から、企業の営業秘密や顧客の個人情報が漏洩する重大なインシデントが多発する。これを受けて、企業は一斉にAI利用に関する管理体制を抜本的に強化し、自由な利用に厳しい制限をかけ始める。
  • 転:過剰な約束の破綻とスタートアップの淘汰 社会的な規制と企業側の管理が強化され、AIに対する信頼性への要求水準が格段に高まる。その結果、「何でもできる」と過剰な約束を掲げて資金を調達してきた多くのAIスタートアップが、事業機会を失い、次々と淘汰・倒産していく段階に入る。
  • 結:勝者による市場の集約 一連の混乱を乗り越えるだけの技術力、資金力、そして社会的信頼を維持した巨大テック企業(OpenAI、Googleなど)が生き残る。彼らは、淘汰されたスタートアップが去った後の‌‌「荒野」を堂々と歩き‌‌、‌‌「俺たちが顔役だ」‌‌と宣言することで、市場の支配者として君臨する時代が到来する。

このシナリオは、ドットコムバブルが崩壊した後に、AmazonやGoogleといった少数の勝者が台頭し、今日のデジタル社会の基盤を築いた歴史の再現である。この未来像こそが、今、日本企業が自らの戦略を立てる上で不可欠な羅針盤となる。

4. 日本企業への戦略的提言:失われた30年を繰り返さないために

AIバブルの崩壊は、悲観すべき終わりではなく、日本企業にとって新たな成長の好機となり得る。過去の失敗から学び、日本の独自の強みを自覚し、それを戦略的に活かすことで、世界の中で新たな価値を創造する成長軌道を描くことは十分に可能だ。ここでは、そのための具体的な3つの戦略的指針を提言する。

4.1. 最重要原則:過去の失敗から学ぶ

まず、何よりも心に刻むべきは、過去の失敗である。なぜ日本からGoogleが生まれなかったのか。その最大の理由は、ドットコムバブルの崩壊と共に、日本がリスクを取ることをやめ、投資から完全に手を引いてしまったからだ。

「バブル崩壊=AIは不要」という短絡的な思考に陥ることこそが、最大の戦略的誤りである。崩壊後も、AI技術そのものが社会の基盤となる事実は変わらない。熱狂が去った後も、冷静に投資を継続し、技術と真摯に向き合い続ける覚悟を持つこと。それが、すべての戦略の出発点となる。

4.2. 日本の勝機:独自の強みを活かす二正面作戦

米国の巨大テック企業と同じ土俵でLLM開発競争を繰り広げることは得策ではない。日本は、独自の強みを活かした二正面作戦で勝機を見出すべきである。

  • 戦略①「生活に寄り添うAI」の追求
    • 米国の巨大LLM開発競争とは一線を画し、日本が世界に誇る‌‌「ヒューマンタッチ」や「心地よさ」といった価値を追求したAIアプリケーション開発に注力する。米国がAIの壮大なビジョンを語る一方で、その生活インフラは月に一度停電が起きるほど「ボロボロ」である。対照的に、地方の隅々までインフラが「ピカピカ」‌‌な日本は、品質へのこだわりや利用者の機微を捉える感性を活かせる。
    • この領域は、我々の生活に最も近いデバイスを持つAppleですら苦戦している分野であり、日本のものづくりに根付く信頼性と品質は、世界的な競争力となり得る。
  • 戦略②「運用効率」でのリーダーシップ確立
    • 力任せに原発新設まで議論する米国のデータセンター開発とは対照的に、日本企業が持つ省エネルギー技術や効率的なインフラ運用ノウハウは、電力や水資源の限界に直面する世界において、極めて高い価値を持つ。
    • この技術を、単なるコスト削減策としてではなく、グローバルな課題解決に貢献する高付加価値なソリューションとして‌‌「高値で売る」‌‌という気概を持つべきだ。これは、日本の新たな収益源となる大きな可能性を秘めている。

4.3. 基盤となる覚悟:国産AI開発への継続的投資

主要なLLMが英語中心のデータで学習されている現実は、日本の文化やビジネス環境にとって長期的なリスクとなる。海外のプラットフォームを利用するだけでなく、自国の言語と文脈を深く理解した‌‌「ソブリンAI」‌‌を育成することは、国家的な重要課題である。

日本語データの学習や独自モデルの開発には、時間とコストがかかる。しかしこの投資は、バブル崩壊後に生き残る海外の勝ち組と対等に‌‌「付き合う」ための交渉力‌‌を担保し、自国の文化や産業の自律性を守るためにも不可欠な基盤となるのだ。

これらの戦略を遂行することは、単なる一企業の事業活動に留まらない。それは、日本の未来の産業競争力を左右する、世代を超えた重要な決断なのである。

結論:バブルの先にある未来を創造するために

本レポートで分析したように、現在のAIを巡る熱狂は、構造的な要因によって支えられたバブルであり、その崩壊は避けられない。しかし、それは市場の終わりを意味するのではなく、むしろ過剰な期待が削ぎ落とされ、真の価値が生まれる健全な再編の始まりである。

この歴史的な転換期は、日本企業に「傍観者」でいることを許さない。ドットコムバブルで投資から撤退してしまった過去の失敗を乗り越え、自らの独自の強みを自覚し、能動的に未来を切り拓くべき時が来ている。

生活に寄り添う繊細なアプリケーション、世界が求めるインフラの運用効率、そして自国の文化を守るための国産AIへの投資。これらの戦略を、冷静な分析と大胆な実行力をもって推進すること。それこそが、AI時代における日本の持続的な成長を実現する唯一の道であると、私たちは結論付ける。

情報源

動画(55:16)

【ChatGPT“大赤字”が招く悪夢】『AIバブルの不都合な真実』著者・クロサカタツヤ/狂乱のテック株、コロナマネー切れで宴は終わる/儲からないまま、データ枯渇と電力危機で限界を迎える【1on1】

https://www.youtube.com/watch?v=DMV6BAGuFn0

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(2025-10-30)