Daryl Bem の予知実験の追試成功が科学界に与えた衝撃
前置き
「Daryl Bem の予知実験」について Jimmy Akin が解説している動画を AI で整理した。
要旨
予知実験と科学論争
この文字起こしは、ポッドキャスト番組「Jimmy Akin's Mysterious World」のエピソード377の一部であり、心理学者ダリル・ベムによる「未来を感じる(Feeling the Future)」と題された予知実験とそれを取り巻く科学論争について焦点を当てています。
ベムの実験は、被験者が将来の出来事についての情報を無意識に知覚する能力、すなわち予知能力を持っている可能性を強く示唆し、その結果は統計的に非常に有意であり、懐疑的な科学界に大きな衝撃を与えました。
この議論では、予知現象の科学的根拠、頻度論的統計とベイズ統計の適用、そして再現性(レプリケーション)の重要性といった主要な科学的手法の問題が掘り下げられ、多くの懐疑論者が結果を受け入れ難いと感じたにもかかわらず、その後のメタ分析でもベムの結論が裏付けられたことが解説されています。
目次
- 前置き
- 要旨
- ダリル・ベムの予知実験と科学的論争に関するブリーフィング
- 「未来を感じる」— 心理学者ダリル・ベムの驚くべき9つの予知実験を徹底解説
- 科学を揺るがした「予知実験」から学ぶ、科学的思考のレッスン
- 予知実験が暴いた科学の脆さ:ダリル・ベム論文が心理学に残した教訓
- 研究論文レビュー:ダリル・ベムの『Feeling the Future』が提起した予知能力の科学的証拠とその論争
- 実験の概要と背景
- 予知実験の具体例
- 実験結果と統計的意義
- 科学界の論争と反応
- 再現性
- 情報源
- 文字起こし(話者識別)
ダリル・ベムの予知実験と科学的論争に関するブリーフィング
エグゼクティブ・サマリー
2011年、社会心理学者のダリル・ベムは、権威ある学術誌『Journal of Personality and Social Psychology』に『Feeling the Future』と題する論文を発表し、科学界に衝撃を与えた。この論文は、一般の人々が未来の出来事を無意識に予知する能力を持つことを示唆する9つの実験結果を報告した。実験のうち8つは統計的 に有意な結果を示し、その総合的な結果は、偶然によって生じる確率が数十億分の1以下(6.5シグマ)という驚異的なものであった。
この発見は、特に懐疑的な科学者たちから激しい反発を招き、「狂気の沙汰」とまで評された。批判は主に、①探索的研究と確証的研究の混同、②ベイズ統計学ではなく頻度論的統計学を使用したこと、③未発表の研究が結果を歪める「ファイルドロワー効果」、④再現性の欠如、という4点に集中した。
しかし、これらの批判に対してベムと彼の擁護者たちは、統計的手法を用いた反論や、再現研究の重要性を強調することで応じた。ベム自身が実験手法を公開し、再現を奨励した結果、2016年には彼の研究を含む90の実験(33の研究室、14カ国)を対象としたメタ分析が発表された。この分析でも、予知の存在を支持する結果は6シグマを超え、ベムの当初の結論を強力に裏付けた。ベイズ統計学を用いた分析でも、その証拠は「決定的」と評価された。本資料は、ベムの実験、その結果、巻き起こった論争、そして再現研究による検証の全容を詳述する。
1. 序論:ダリル・ベムと『Feeling the Future』論文
ダリル・ベムは、コーネル大学の社会心理学者であり、当初は主流の心理学を専門としていたが、1990年代から超心理学の研究に関心を持つようになった。彼の研究の集大成として、2011年に発表された論文が『Feeling the Future: Experimental Evidence for Anomalous Retroactive Influences on Cognition and Affect』(未来を感じる:認知と感情に対する異常な遡及的影響の実験的証拠)である。
この論文が主流の心理学界で非常に権威のある学術誌に掲載されたことが、その影響を一層大きなものにした。論文の核心は、人間が未来の出来事から無意識に情報を受け取る能力(予知)を持つという仮説を検証した9つの実験の結果報告であった。
主な発見:
- 実施された9つの実験のうち、8つで統計的に有意な結果が得られた。
- 9つの実験結果を統合すると、そのp値は2.6 x 10⁻¹¹となり、偶然による結果である確率は約370億分の1に過ぎなかった。
- この結果は統計的に6.5シグマに相当し、素粒子物理学において新粒子の発見を宣言するために必要とされる「ゴールドスタンダード」の5シグマを大きく上回っていた。
2. 9つの予知実験の概要
ベムの実験設計の独創性は、確立された標準的な心理学実験のプロトコルを基にしながら、原因(刺激)と結果(反応)の順序を逆転させた点にある。これにより、通常の因果関係ではなく、未来の出来事が現在の反応に影響を与える「遡及的因果(retro-causation)」、すなわち予知を検 証することが可能になった。
| 実験番号 | 実験名 | 目的と手法 |
|---|---|---|
| 実験1 | エロティックな刺激の予知的検出 | 参加者は2つのカーテンのどちらかの後ろに画像があると信じて選択する。選択後、コンピューターがランダムに画像の表示位置を決定する。セクシーな画像が未来に表示される位置を、偶然(50%)以上に正しく選択できるかを検証した。 |
| 実験2 | ネガティブな刺激の予知的回避 | 参加者は2つの鏡像画像のどちらを好むかを選択する。選択後、コンピューターはランダムに片方を「ターゲット」と定め、選択が一致すればポジティブな画像を、不一致ならばネガティブな画像(攻撃的な犬など)をサブリミナルで表示する。未来の罰(ネガティブ画像)を無意識に避けられるかを検証した。 |
| 実験3 | 遡及的プライミング | 参加者は画像がポジティブかネガティブかを判断する。判断後、コンピューターがランダムにポジティブまたはネガティブな単語(プライム)を表示する。未来に表示されるプライム単語と画像の感情価が一致する場合、判断時間が短縮されるかを検証した。 |
| 実験4 | 遡及的プライミング(再現) | 実験3の再現。ただし、プライム単語を画像と意味的に関連するものに限定し、手続きを洗練させた。 |
| 実験5 | 遡及的馴化 | 参加者は2つの類似画像から好む方を選択する。選択後、コンピューターはランダムに片方をターゲットとし、その画像をサブリミナルで繰り返し表示する。未来で繰り返し接触する画像を、より好ましく感じるかを検証した。 |
| 実験6 | 遡及的馴化(再現) | 実験5の再現。ただし、刺激にセクシーな画像を追加した。セクシーな画像は繰り返し見ると飽きが生じるため、未来で繰り返し表示される画像を逆に好まなくなるという仮説も検証した。 |
| 実験7 | 遡及的退屈誘導 | 参加者は2つの中立的な画像から好む方を選択する。選択後、コンピューターが片方をターゲットとし、その画像を意識的に知覚できる長さで繰り返し表示する。未来の反復表示によって生じる「退屈」を予知できるかを検証した。この実験のみが統計的有意水準に達しなかった(p値 = 0.096)。 |
| 実験8 | 遡及的想起促進 | 参加者に単語リストを提示し、覚えている単語を答えてもらう。その後、コンピューターがリストの半分の単語をランダムに選び、参加者にその単語を練習させる。未来で練習することになる単語を、現在においてより多く想起できるかを検証した。 |
| 実験9 | 遡及的想起促進(再現) | 実験8の再現。練習方法を一部変更して実施した。 |
3. 科学界の反応と主要な批判
ベムの論文は、科学界、特に懐疑論者たちの間で激しい反発を引き起こした。彼の仮説は、「狂気が狂気の上に積み重なったもの」と見なされた。なぜなら、①予知が存在し、②訓練されていない一般人がそれを使用し、③しかも無意識かつ常時使用してい る、という三重の意味で常識に反すると考えられたからだ。
ある著名な心理学者は論文を読んで「物理的に気分が悪くなった」と述べ、また別の心理学者は「結果は明らかに不正操作されている」と断じた。これらの感情的な反応とは別に、科学的方法論に基づいた主要な批判が4つ提起された。
- 探索的研究と確証的研究の混同
- 批判者たちは、ベムが仮説を生成するための探索的研究と、仮説を厳密に検証するための確証的研究を明確に区別していなかった可能性を指摘した。実験の途中で手順を変更すると、意図した結果を導きやすくなる危険性がある。
- ベイズ統計学の不使用
- ベムは、心理学で標準的な頻度論的統計学(p値など)を用いた。しかし批判者たちは、特に「ありそうもない」仮説を評価する際には、事前の信念(prior beliefs)を考慮に入れるベイズ統計学を用いるべきだと主張した。
- ファイルドロワー効果(出版バイアス)
- 学術誌は肯定的な結果(統計的に有意な結果)が出た研究を掲載し、否定的な結果(有意差なし)が出た研究を掲載しない傾向がある。このため、ベムの肯定的な結果だけが公表され、予知を否定する多くの未発表研究が「ファイルキャビネットの中(in file drawers)」に眠っているのではないかという懸念が示された。
- 再現性の必要性
- 科学において、ある発見が本物であると認められるためには、独立した第三者による再現実験で同じ結果が得られることが不可欠である。批判者たちは、ベムの結果が再現されるまでは結論を保留すべきだと 主張した。
4. 批判への反論と再現研究の結果
ベムと彼の支持者たちは、これらの批判に対して詳細な反論を行った。そして最終的には、最も重要な検証である再現研究によって、その主張の妥当性が試されることになった。
ベム側の応答
- 探索的研究と確証的研究について: ベムは、研究の初期段階では後年ほど厳密ではなかった部分があったことを認めつつ、最終的な解決策は再現研究にあると主張した。
- ベイズ統計学について: ベムは2人の統計学者と共に、自身のデータをベイズ統計学で再分析した論文を発表。その結果、予知仮説を支持するベイズ因子は13,669となり、一般的に「決定的な証拠」とされる基準値100をはるかに超えることを示した。
- ファイルドロワー効果について: 2016年のメタ分析では、公表された効果を統計的に無意味なレベルまで引き下げるには、544件もの未発表の失敗研究が存在する必要があると算出された。超心理学分野の研究者の総数を考えると、これは非現実的な数字であると結論付けられた。