Scott Adams : 「情熱追求や目標設定」は敗者への道
前置き＋コメント
精神世界の 説教者/グル は大勢いるが、彼らは
- 情熱を持て、
- 情熱を追求せよ、
と口を揃えて説く。この Blog で取り上げた連中では Bashar や LEO や Bentinho Massaro なども典型的。
だが、そういった凡庸で役立たずな「教え」を真っ向から否定しているのが Scott Adams の以下の講演。さらに、Scott Adams は一般に広く普及している
- 目標を設定せよ
という教訓も時代遅れとして否定している。
Scott Adams の説く方法を実践するには合理的な思考習慣が必要なので、それなりの賢さが要求される。それゆえ、万人向けとまでは言えない。
かつて、過去記事で取り上げたものを AI で整理した。
要旨
目標、情熱、運：成功へのテンプレート
スコット・アダムスのYouTubeチャンネルからの抜粋であるこのソースは、彼が「成功のためのテンプレート」と呼ぶものを聴衆に提示した基調講演の記録です。
彼は、従来の目標設定は時代遅れであり、「敗者のためのもの」であると主張し、代わりにシステムを採用することを提案しています。ア
ダムスは、情熱もまた成功にとって「過大評価されている」要素であるとし、代わりに個人のエネルギーを高めることの重要性を強調しています。さらに、彼は運は操作可能であると論じ、成功の可能性を高めるために、認知の幅を広げることを提唱しています。
講演の大部分は、ダイエットや運動などの例を用いて、目標と比較したシステムの概念を定義し、説明することに費やされています。
目次
戦略的覚書：ゴール設定を超え、個人の価値を最大化するシステムベースのキャリア開発
序論：予測不可能な時代におけるキャリア戦略の再定義
現代のキャリア環境は、かつてないほど複雑で予測不可能になっている。100年前の農夫が「冬までに40エーカーの土地を開墾する」という明確な目標を立てることが合理的であった時代とは異なり、今日の我々は、スマートフォンの内部構成（通信キャリア、料金プラン、通信規格、無数のアプリ）が示すように、個人の手には負えないほどの「複雑性」の中でキャリアを航海しなければならない。このような変動の激しい世界において、かつて有効であった目標達成型のアプローチは、その有効性を失いつつある。
本覚書は、この構造的変化に対応できない旧来のアプローチを破棄し、キャリア資本を指数関数的に増大させるための、実践的なOS（オペレーティング・システム）導入を目的とする。ここで提示する「システムベース」のアプローチは、単一のプロジェクトや目標の成否に一喜一憂することなく、個人の市場価値と成功の確率そのものを着実に高めるための戦略的フレームワークである。
次章では、まず、なぜ従来のゴール設定が現代において「敗者の戦略」となりうるのか、その構造的な欠陥から掘り下げていく。
1. ゴール志向アプローチの構造的欠陥
キャリア戦略を策定する上で、なぜ特定のゴールに固執することが逆効果になりうるのか、その根本的な理由を理解することは極めて重要である。多くの成功譚で語られる「明確な目標設定」は、実は現代の複雑な環境においては、成功確率を著しく低下させるリスクを内包している。
ゴール設定のリスク分析
漫画『ディルバート』の作者であるスコット・アダムスは、ゴール志向アプローチが抱える2つの主要な欠陥を、鋭い比喩を用いて指摘している。
複雑性への不適合
アダムスによれば、現代におけるゴール設定とは、「霧の立ち込める森の中で、暴れる馬の上から、常に動き続ける的を、たった一本の矢で射抜こうとする」ようなものである。自分自身も、環境も、そして目標そのものも絶えず 変化する中で、単一のゴールを追い求めることは、統計的に見て成功確率が極めて低い行為と言わざるを得ない。偶然その的を射抜いた者は、自著で「ゴールを持つことの重要性」を説くかもしれないが、それは生存者バイアスに過ぎず、大多数の失敗者の存在を覆い隠してしまう。我々の目的は、再現性の低い「成功者の神話」に賭けることではなく、統計的に優位な「システム」を構築することにある。
機会損失の発生
ゴール志向のもう一つの深刻な問題は、それが「トンネルビジョン」を生み出すことである。特定の目標に意識を集中させることは、その性質上、視野を狭める。その結果、ゴールを追い求める過程で、本来であればそのゴール以上に価値のある、より優れた機会がすぐそばに現れたとしても、それに気づくことすらできなくなってしまうのだ。一点に集中するあまり、キャリアの可能性を最大化するはずの選択肢を、知らず知らずのうちに見過ごしてしまうリスクは計り知れない。
ゴール設定の限界を明らかにした今、次章では、これらの問題を克服するための代替案として「システム」という概念を提示し、その戦略的価値を具体的に解説する。
2. システム：成功確率を高めるためのOS（オペレーティング・システム）
このセクションでは、抽象的な概念としての「システム」を、キャリア開発における具体的かつ実践的なフレームワークとして定義し、ゴール志向アプローチを超えるその有効性を明らかにする。システムとは、単なる行動指針ではなく、個人の価値を長期的に高め続けるためのOS（オペレーティング・システム）である。
システムの定義と核心
スコット・アダムスは「システム」を以下のようにシンプルかつ強力に定義している。
- 定義: 特定のゴールを持たずとも、成功の確率を向上させるために定期的に行うこと。
- 核心的価値: たとえ個々のプロジェクトが失敗に終わったとしても、長期的に見て個人の価値そのものを高めること。
重要なのは、システムが特定の成果物を目指すのではなく、プロセスを通じて自分自身の能力や市場価値を高めることに主眼を置いている点である。これにより、個別の失敗は「学習」へと転換され、全ての経験が未来への投資となる。
ゴールとシステムの比較
ゴール志向とシステム志向の違いを、具体的な事例で対比してみよう。
| 事例 | ゴール志向アプローチ（従来型） | システム志向アプローチ（価値向上型） |
|---|---|---|
| 恋愛 | 特定の相手（ゴール）を定め、数ヶ月かけて計画を練る。失敗すると何も残らない。 | 多くの人にアプローチし（プロセス）、断られる経験を通じてコミュニケーション能力や精神的な強さを身につける（スキル向上）。 |
| 健康（ダイエット） | 「10ポンド減らす」という目標に対し、有限な「意志力」でクッキーを我慢する。 | 食物に関する「知識」で意志力を代替する。サラダバーでパスタと白じゃがいもがあれば、グリセミック指数が低いパスタを選ぶ知識が、意志力への依存を減らす。健康食を美味しくする知識と習慣が、持続可能な健康を構築する。 |
このように、システムは短期的な結果よりも、長期的な能力向上と成功確率の上昇を重視する。アダムスの友人マニュエルは、アプローチを繰り返すシステムの中で、人を惹きつける会話術や、断られることへの耐性を身につけ、結果的に自身の価値を高めていった。ダイエットの例では、意志力という枯渇する資源に頼るのではなく、知識と習慣という持続可能な資源に投資することで、恒久的な健康を手に入れる道筋を示している。
システムの基本的な概念と利点を説明したところで、次のセクションでは、このシステムを自身のキャリアに実装するための、より具体的な戦術を掘り下げていく。
3. 戦略的OSの実装：価値向上を加速する3つの戦術
システムという概念を具体的な行動に落とし込み、自身のキャリアに応用するための実践的な方法論を提示する。ここで紹介する3つの戦術は、個人の市場価値を体系的に高め、予期せぬ機会を引き寄せるための強力なツールとなる。
戦術1：スキルの重ね合わせ（スキル・スタッキング）
単一の分野で世界一を目指す戦略は、現代においては極めて困難である。代わりに、複数の「そこそこ良い」スキルを意図的に組み合わせることで、代替不可能なユニークな価値を創造する「スキル・スタッキング」が有効だ。
スコット・アダムス自身がその好例である。彼は、「並の絵のスキル」「優れたとは言えない文章力」「そこそこのユーモア」「ビジネスに関する少しの知識」という4つのスキルを掛け合わせることで、『ディルバート』という世界的な成功を収めた。どのスキルも単体ではトップクラスではないが、その組み合わせが彼を唯一無二の存在にしたのである。
例えば、多くの専門家が持つスキルセットに 「パブリックスピーキング」という補足的なスキルを加えるだけで、その人物の価値は飛躍的に高まる。自分の専門知識を明確かつ説得力を持って他者に伝える能力は、リーダー候補としての評価を確立するための強力な武器となるだろう。
戦術2：意図的な実践による能力開発
リスクの低い環境で意図的に実践を繰り返すシステムは、失敗を学習機会に変えながら、重要なスキルを安全に磨くための「訓練場」として機能する。
アダムスのテニスパートナーの事例は、この戦術の有効性を見事に示している。彼は、受かるつもりのない会社の面接を受け続けるというシステムを実践していた。このシステムを通じて、彼はリスクゼロの環境でネットワーキング能力と自己PR能力を継続的に向上させた。そしてある日、面接官から「あなたはこのポジションには優秀すぎるが、退職したばかりの部門長のポジションに完璧だ」と告げられ、予期せぬ形で大幅な昇進を勝ち取ったのだ。これは、個々の面接（プロジェクト）が「失敗」（＝採用辞退）に終わっても、彼自身の交渉能力と市場での認知度（個人の価値）が確実に向上した、システムの好例である。
戦術3：個人のエネルギー管理
全ての成功の基盤となるのは、個人の「エネルギーレベル」である。どんなに優れたスキルや計画があっても、それを実行するためのエネルギーがなければ意味がない。
ここでもシステム思考が役立つ。「週に10マイル走る」といった意志力に依存するゴールは、苦痛を伴うため長続きしない。それに対し、「毎日、無理のない範囲で体を動かし、良い気分で終える」というシステムは、運動をポジティブな習慣へと変える。週3～4回の苦しい運動よりも、7日間毎日、自分を追い込まない運動を続けることこそが、それを「習慣」に変える鍵である。時には「運動着に着替えるだけ」という小さな行動が、脳内の関連プログラムを起動させ、自然と体を動かすエネルギーを生み出すこともある。
これらの具体的なシステム構築法を実践することで、次のセクションで論じる「情熱」や「運」といった、コントロール不能に見える要素すらも、戦略的にマネジメントすることが可能になる。
4. 成功の神話を再考する：情熱と運のマネジメント
キャリア論において頻繁に語られる「情熱」と「運」。これらは、しばしば感情論や偶然性の領域に追いやられがちだ。しかし、システム的アプローチを 用いることで、これらの要素を感情論から切り離し、戦略的にマネジメントすることが可能になる。
「情熱」から「エネルギー」へ
多くの億万長者が成功の秘訣として「情熱」を挙げるが、アダムスはこの通説に懐疑的だ。彼らがそう語るのは、「自分は他人より賢いから」や「インサイダー取引で儲けたから」といった、体裁の悪い真実を公の場で語れないからに過ぎない、と彼は指摘する。
この主張の妥当性は、オーディション番組『アメリカン・アイドル』の事例を見れば明らかだ。アダムスの友人は、番組の勝者を指して「彼らの成功は情熱の証だ」と主張した。しかしアダムスは、予選の初期段階に登場する、情熱に満ち溢れていながら落選していくスタジアム一杯の参加者たちを指摘し、反論する。この事実から見れば、情熱は成功よりもむしろ「悲惨な失敗」との相関関係の方が強いとさえ言えるかもしれない。
キャリアにおける成功に必要なのは、非合理的で時に視野を狭める「情熱」ではない。むしろ、前章で述べたシステムによって維持・向上される、持続可能な「肉体的・精神的エネルギー」こそが、困難を乗り越え、行動し続けるための真の原動力となるのだ。
「運」を引き寄せるシステム
運そのものを直接コントロールすることは不可能だ。しかし、成功確率が高い「ゲーム」に自らの身を置くことで、運を引き寄せる確率を高めることはできる。それは、「雷に打たれたいのなら、嵐の日に、山頂で、避雷針を掲げて待つ」という行為に似ている。ゲームのルールを変えることで、偶然の発生確率を操作するのだ。
リチャード・ワイズマン博士の研究は、さらに踏み込んだ示唆を与える。彼の研究によれば、「自分は幸運だ」と信じている人々は、実際に知覚の範囲が広く、悲観的な人々が見過ごしてしまうような機会に気づきやすいことが分かっている。そして最も重要なのは、この「幸運なマインドセット」は、肯定的な思考の訓練によって後天的に身につけることが可能だという事実だ。運は、訓練可能なスキルなのである。
システムを通じて常に新しいスキルを学び、人脈を広げ、エネルギーを高めておくことは、まさにこの「避雷針」を自らのキャリアに設置する行為に他ならない。そうすることで、私たちは幸運に「気づき」、それを「行動に移す」確率を劇的に高めることができるのだ。
情熱と運をシステム思考の観点から再定義した今、本覚書の議論全体を総括し、最終的な提言へと移る。
5. 結論：ゴールを捨て、システムを構築せよ
本覚書を通じて、現代の複雑なキャリア環境において、固定的なゴールを追い求めることの危険性と、それに代わるシステムベースのアプローチの戦略的優位性を論じてきた。ゴールが一点集中の脆弱性を抱えるのに対し、システムは個人の市場価値と成功確率を継続的に高める、強固で柔軟なフレームワークを提供する。
最終提言
本覚書の読者に対し、自身のキャリアを捉え直すことを強く推奨する。具体的な役職や年収といった「ゴール」で未来を定義するのではなく、「どのようなスキルを積み重ね、どのような習慣を身につければ、自身の市場価値が長期的に向上し続けるか」という「システム」の観点から自らのキャリアを設計してほしい。スキル・スタッキング、意図的な実践、エネルギー管理といった戦術は、そのための具体的なロードマップとなるだろう。
システムを構築することは、不確実な未来に対する唯一にして最も堅牢な投資であり、自らのキャリアの主導権を完全に掌握するための、不可欠な戦略的決断である。
情報源
動画(25:47) Scott Adams Connect2014 Keynote Large 540p
66,100 views 2014/02/26
(2025-11-08)