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Roger Penrose の語る「意識と量子力学」

· 57 min read

前置き

2025-11-17 に up されたインタビュー動画を AI(NotebookLM) で整理した。

要旨

AI

ペンローズの意識と量子力学

このテキストは、‌‌ロジャー・ペンローズが意識というテーマについて語ったインタビューの抜粋‌‌であり、特に‌‌彼が意識の問題にどのように導かれたか‌‌、そして‌‌意識と量子力学における波動関数の崩壊との関係‌‌についての見解に焦点を当てています。

ペンローズは、‌‌ゲーデルの不完全性定理を学んだこと‌‌が、理解(意識)は計算的ではないという考えにつながった主要なきっかけだと説明しています。

彼は、‌‌意識が波動関数の崩壊の原因であるという見解を否定し‌‌、むしろ‌‌意識が波動関数の崩壊に依存している‌‌という逆の立場を提唱しており、これは‌‌人工知能(AI)が真の「理解」を伴わない‌‌とする彼の見解にもつながっています。

さらに、彼は‌‌量子現実と古典的現実の違い‌‌や、‌‌特定の超対称性が崩壊の「寿命」を与える‌‌という彼の理論的枠組みについても論じています。

目次

  1. 前置き
  2. 要旨
  3. ロジャー・ペンローズによる意識、物理学、計算に関する見解の概要
    1. エグゼクティブ・サマリー
    2. 1. 意識と非計算性:ゲーデルの不完全性定理からの洞察
    3. 2. 人工知能(AI)への批判的見解
    4. 3. 意識の物理的基盤の探求
    5. 4. 量子力学と意識:波動関数の収縮
    6. 5. 意識の生物学的候補:マイクロチューブルと錐体細胞
    7. 6. 二種類の現実:量子現実と古典的現実
  4. ロジャー・ペンローズが語る「2つの現実」:カップと電子が教える世界観
    1. 導入:私たちの世界は一つではない?
    2. 1. 私たちがよく知る世界:「古典的現実」
    3. 2. ミクロの奇妙な世界:「量子現実」
    4. 3. 一目でわかる!「古典的現実」と「量子現実」の決定的違い
    5. 結論:なぜ2つの現実を区別するのか
  5. 意識
    1. 1. 意識と理解:計算不可能性の論拠
    2. 2. 意識と物理学:波動関数の収縮
    3. 3. 客観的収縮と現実の区別
    4. 4. 生物学的基盤
  6. 物理学と計算可能性
    1. 1. ほとんどの物理法則は計算可能である
    2. 2. ゲーデルの定理と計算不可能性の確信
    3. 3. 物理学における唯一のギャップ:波動関数の収縮
    4. 4. 収縮モデルと因果律、現実の種類
  7. 現実の 2種類
    1. 1. 現実を二種類に分ける必要性
    2. 2. 古典的現実(Classical Reality)
    3. 3. 量子的現実(Quantum Reality)
    4. 4. 意識との関連
  8. 情報源

ロジャー・ペンローズによる意識、物理学、計算に関する見解の概要

AI

エグゼクティブ・サマリー

このブリーフィングは、ロジャー・ペンローズ氏が自身の理論について語った内容をまとめたものである。中心的な主張は、人間の意識が「理解」という非計算的なプロセスを含んでおり、その物理的基盤は量子力学における波動関数の客観的収縮にあるというものである。ペンローズ氏は、ゲーデルの不完全性定理から、人間の理解が形式的なルール(アルゴリズム)を超越していると結論づけ、これが意識の非計算性の根拠であると主張する。

この見解に基づき、彼は現在の人工知能(AI)を真の「知能」ではなく、ルールに従うだけの「人工的な巧妙さ」に過ぎないと批判する。意識の物理的基盤として、彼は量子論における波動関数の収縮という、物理学における唯一の非計算的なプロセスに着目した。彼の理論では、意識が波動関数の収縮を引き起こすのではなく、むしろ波動関数の客観的な物理プロセスが意識を生み出す基盤となっている。

この客観的収縮は、重力的な自己エネルギーに関連する特定の閾値に達したときに起こるとされ、その生物学的な候補として、スチュアート・ハメロフ氏との共同研究を通じて、脳内の錐体細胞にあるマイクロチューブル(微小管)を挙げている。さらに、自身の理論が内包する逆因果的な側面を説明するため、「古典的現実」と「量子的現実」という二種類の現実を区別する概念を提唱している。

1. 意識と非計算性:ゲーデルの不完全性定理からの洞察

ペンローズ氏が意識の問題に関わるようになったきっかけは、大学院時代に受けた数学論理学の講義でゲーデルの不完全性定理に触れたことだった。

  • ゲーデルの定理の衝撃: 彼は、ゲーデルの定理が「ある形式的なルール体系内では証明不可能だが、真であると人間には理解できる命題が存在する」ことを示している点に衝撃を受けた。
  • 「理解」の本質: あるルール体系が真理のみを生み出すと信じる(信頼する)からこそ、そのルール体系の外に出て、その体系では証明不可能な命題が真であると結論できる。このプロセスは、ルールに従うだけの計算的な手続きではなく、「理解」という行為そのものである。
  • 意識との関連: ペンローズ氏は、「理解」という言葉には「気づき(awareness)」が不可欠であると主張する。何かを理解するためには、それを意識している必要がある。したがって、この非計算的な「理解」の能力は、意識が関与するプロセスであると彼は結論づけた。

2. 人工知能(AI)への批判的見解

ゲーデルの定理から導かれた洞察に基づき、ペンローズ氏は現代のAIに対して懐疑的な立場を取る。

  • 知能ではなく巧妙さ: 彼は現在のAIを「人工知能(Artificial Intelligence)」と呼ぶのは不適切であり、「人工的な巧妙さ(Artificial Cleverness)」と呼ぶべきだと主張する。
  • 理解の欠如: AIは単にプログラムされたルールに従っているだけであり、そこに真の「理解」は存在しない。彼の論理では、理解は非計算的なプロセスであるため、計算に基づいているAIは本質的に理解を持つことができない。

3. 意識の物理的基盤の探求

物理学者であるペンローズ氏は、意識が物理法則に従うものであると信じ、その非計算的な性質を説明できる物理現象を探求した。

  • 計算可能な物理法則: ニュートン力学、マクスウェル方程式、相対性理論、そしてシュレーディンガー方程式で記述される量子力学に至るまで、既存の物理法則のほとんどは計算可能(computable)である。
  • 物理学における「ギャップ」: 彼は、物理学全体の中で唯一、非計算的な要素が見られるのが「波動関数の収縮(collapse of the wave function)」であると考えた。これが、意識という非計算的な現象を物理的に説明するための鍵となる「ギャップ」であると彼は見なしている。

4. 量子力学と意識:波動関数の収縮

ペンローズ氏の理論の中核は、波動関数の収縮と意識の関係性にある。

a. 「意識が収縮を引き起こす」という見解の否定

彼は、ユージン・ウィグナーなどが提唱したとされる「意識的な観測者が波動関数を収縮させる」という考え方を明確に否定する。

  • 思考実験による反論: 彼はこの見解の不合理さを示すため、次のような思考実験を提示した。
    1. 生命の存在しない遠い惑星があり、そこではあらゆる天候の可能性が量子的な重ね合わせ状態にある。
    2. 宇宙探査機がその重ね合わせ状態の惑星の写真を撮る。
    3. 写真のデータが地球に送られ、意識を持つ人間がスクリーン上で初めてその写真を見た瞬間に、惑星の天候が一つの状態に収縮する。
  • 結論: このようなシナリオは「全く意味をなさない」と彼は断じている。

b. 「波動関数の収縮が意識の基盤である」という逆の視点

彼の見解は、上記とは正反対である。

  • 中心的な主張: 意識は波動関数の収縮を引き起こす原因ではなく、むしろ波動関数の物理的な収縮プロセスに依存して生じる現象である。
  • 客観的収縮(Objective Reduction - OR): 収縮は観測者の主観に依存するのではなく、システムが物理的にある大きさに達したときに自発的に起こる客観的なプロセスである。

c. 客観的収縮(OR)の物理モデル

ペンローズ氏は、この客観的収縮が起こる具体的な物理的条件を提案している。

  • ディオシ・ペンローズ基準: 重ね合わせ状態にある2つの状態間の重力的な自己エネルギーの差を計算し、その逆数が重ね合わせ状態の寿命を与えるというもの。この寿命は、ハンガリーの物理学者ライオス・ディオシによって数年早く独立して発見されたため、ペンローズ氏はしばしば「ディオシ寿命」と呼んでいる。
  • ディオシ理論との相違点: ディオシの理論は、収縮が常に起こることで自発的な熱が発生することを予測していた。しかし、この「自発的加熱」は実験によって否定された。ペンローズ氏のモデルはこの加熱を予測しないため、実験的な反証を免れている。ただし、加熱を回避するためには、「逆因果性(retrocausality)」という奇妙な性質を導入する必要がある。

5. 意識の生物学的候補:マイクロチューブルと錐体細胞

ペンローズ氏は、自身の物理理論を生物学的な現実に結びつけるため、スチュアート・ハメロフ氏の研究に注目している。

  • マイクロチューブル(微小管): 当初、『皇帝の新しい心』を執筆した時点では明確な生物学的解答はなかったが、後にハメロフ氏からマイクロチューブルについて学び、神経伝達よりも量子プロセスが起こる場所として、より可能性が高いと考えるようになった。
  • 錐体細胞: ハメロフ氏が、意識にとって重要な構造として「錐体細胞」を挙げている点を「非常に説得力がある」と評価している。錐体細胞は大脳皮質に存在するが、小脳には見られない。
  • 大脳と小脳の対比: 小脳は体の動きを制御するなど、その構造がコンピュータ科学者が設計するような論理的な構成(左側が左半身、右側が右半身を制御)になっており、完全に無意識的である。これはコンピュータに似ている。一方、錐体細胞が存在する大脳は意識と関連している。

6. 二種類の現実:量子現実と古典的現実

自身の理論が要求する「逆因果性」を矛盾なく説明するため、ペンローズ氏は二種類の現実を区別することを提案する。

  • 古典的現実 (Classical Reality): カップの形状のように、その性質を直接問いかけることができ、明確な答えを持つ現実。
  • 量子的現実 (Quantum Reality): 電子のスピンのように、その性質が確定していない重ね合わせ状態にある現実。アインシュタインの現実性の基準(「システムを乱すことなく、ある性質を確実に測定できるなら、その性質は実在する」)を引用し、量子的現実は「あなたのスピンはどちら向きか?」とは問えないが、「あなたのスピンはこの方向か?」と問うことはできると説明する。
  • 逆因果性との関係: この量子的現実の領域では、過去に影響を及ぼすかのような奇妙な因果的振る舞いが許容される。しかし、それは量子的現実の範囲内での出来事であるため、未来が過去を決定するような因果的なパラドックスは生じないとされる。この概念については、彼の著書『ファッション、フェイス、ファンタジー』で詳述されており、さらに詳細な論文を執筆する意向があることを示唆している。

ロジャー・ペンローズが語る「2つの現実」:カップと電子が教える世界観

AI

導入:私たちの世界は一つではない?

著名な物理学者であり思想家でもあるロジャー・ペンローズは、私たちが住む世界を理解するために、極めて重要な視点を提示します。それは、私たちの世界が「古典的現実」と「量子現実」という、性質の全く異なる2つの「現実」から成り立っているという考え方です。

この文書の目的は、ペンローズ自身が用いた「コーヒーカップ」と「電子のスピン」という巧みなたとえ話を手がかりに、これら二つの現実の根本的な違いを、このテーマに初めて触れる方にも直感的に理解できるように解説することです。この区別は単なる思考実験ではなく、ペンローズが物理学の根幹にある「波動関数の収縮」という謎に迫るための、重要な論理的ステップなのです。

1. 私たちがよく知る世界:「古典的現実」

まず、ペンローズが私たちをいざなうのは、「古典的現実(Classical Reality)」の世界です。これは、私たちが日常的に経験し、直感的に「当たり前」だと感じている世界のあり方そのものです。

彼がこの現実を説明するために用いるのが、目の前にあるコーヒーカップという身近な例です。

  • このカップには、私が観測する前から、明確に定まった形や状態(取っ手のついた円筒形など)が存在します。
  • 私が「こんにちは、カップ。君の形は何だい?」と問いかければ、カップはその客観的な状態をそのまま教えてくれます。私たちは、そこに既に存在している性質を発見するだけです。

ペンローズがこの例えで示したかった核心は、‌‌「観測とは無関係に、対象が明確で確定した状態を持つ」‌‌という「古典的現実」の最も重要な特徴です。私が見るか見ないかにかかわらず、カップの形はそこに客観的に存在しているのです。

しかし、ミクロの世界では、この常識が全く通用しない別の現実が存在します。

2. ミクロの奇妙な世界:「量子現実」

次に、私たちの直感を根底から覆す「量子現実(Quantum Reality)」について解説します。ペンローズが案内するのは、原子や電子といった極めて小さなスケールを支配する、奇妙で不可思議な世界です。

彼はこの現実を説明するために、‌‌電子のスピン(自転のような性質)‌‌を例に挙げます。

  • もし電子に、カップにしたのと同じように「こんにちは、君はどっちを向いてスピンしているの?」と尋ねたとしましょう。しかし、電子は明確な答えを返してはくれません。ペンローズの言葉を借りれば、電子はこちらを「虚ろに見つめ返し、『私はそういった質問には答えないんだ。方向を提案してくれ』と言う」のです。
  • なぜなら、尋ねる前の電子のスピンは、あらゆる方向の可能性が同時に重なり合った「量子重ね合わせ」という特殊な状態にあるからです。
  • その状態を知るためには、私たちが「スピンの向きはこの方向かい?」と特定の‌‌方向を「提案」‌‌する必要があります。この提案(測定)という行為が、電子に重ね合わせ状態からの「選択」を強いることで、初めて一つの現実が生まれるのです。

ここでペンローズは、アインシュタインが提唱した「実在性の規準」に触れます。ペンローズは、このアインシュタインの規準こそが、彼が提唱する「量子現実」の本質を捉えるものだと考えています。

  • もし私たちが‌‌正しい方向を提案(測定)すれば、電子は確実に「はい」‌‌と答えてくれます。
  • しかし、間違った方向を提案した場合、その間違いの度合いに応じた確率で「はい」か「いいえ」が返ってきます。
  • このように、私たちの測定という行為が参加することではじめて、無数の可能性の中から状態が一つに確定するのが「量子現実」なのです。

この例えから導き出される「量子現実」の最も重要な特徴は、‌‌「観測者が問いかける(測定する)までは、状態は確定しておらず、可能性としてのみ存在する」‌‌という点です。

では、この二つの現実は具体的に何が違うのでしょうか。表で比較してみましょう。

3. 一目でわかる!「古典的現実」と「量子現実」の決定的違い

これまでの解説を統合し、二つの現実の違いが明確に理解できるよう、以下の表に整理しました。

比較項目古典的現実(カップ)量子現実(電子のスピン)
状態の性質観測前から単一で確定的観測前は複数の可能性が重なり合っている
情報を得る方法「形は何か?」と尋ね、その状態をそのまま知る「この方向か?」と提案し、反応を得る
観測者の役割状態に影響を与えない発見者状態を一つに確定させる参加者

結論:なぜ2つの現実を区別するのか

本稿で解説したように、ロジャー・ペンローズが提示する「古典的現実」と「量子現実」の核心的な違いは、‌‌「状態が観測とは無関係に確定しているか、それとも観測という行為によって初めて確定するのか」‌‌という点にあります。

ペンローズにとって、この二つの現実を厳密に区別することは、単なる哲学的な分類ではありません。これは、彼が取り組む物理学の根源的な問題、すなわち「波動関数の客観的収縮」の理論を構築するための、不可欠な道具なのです。

ディオシのような他の物理学者の理論では、波動関数の収縮が常に自発的に起こることで「熱の問題(heating problem)」が生じ、理論が実験結果と矛盾してしまいます。ペンローズはこの問題を回避するため、量子系が持つ「過去に遡るかのような因果関係(retrocausality)」を正しく扱う必要があると考えました。そして、この奇妙な振る舞いを因果律のパラドックスなしに説明可能にするために、「古典的現実」と「量子現実」という枠組みを導入したのです。

この視点は、ペンローズが時間や因果関係、そして意識といった、科学における最も深遠な問いを探求するための、極めて重要な第一歩となるのです。

意識

AI

Roger Penroseの意識(Consciousness)に関する見解のより大きな文脈において、これらの資料は、意識が‌‌計算不可能‌‌な要素であり、‌‌物理法則の未解明な側面‌‌に依存しているという彼の核心的な主張を説明しています。

以下に、ソースに基づいた意識に関する彼の主要な論点を詳述します。

1. 意識と理解:計算不可能性の論拠

Penroseの意識への関心は、ケンブリッジでの大学院生時代に受講した数学論理学の講義、特に‌‌ゲーデルの定理‌‌から生じました。彼は、ゲーデルの定理が示す「証明不可能な数学的な命題」の存在に衝撃を受けました。

  • ‌理解の必要性:‌‌ ゲーデルの命題が真実であることを知るためには、使用している規則(ルール)が常に真実のみをもたらすと‌‌信じる‌‌必要があり、この「真実であることを知る」過程は、その規則自体を使って導き出すことはできません。
  • ‌意識と結びつき:‌‌ Penroseにとって、このプロセス、つまり「‌‌理解(understanding)‌‌」は、意識に関わるように思えました。彼は、「ある実体が何かを理解していると言うには、それがそのことを認識(aware)していることが通常の言語使用である」と述べています。
  • ‌AIとの対比:‌‌ この視点から、Penroseは、理解は‌‌計算的(computational)なものではない‌‌と強く主張しています。彼にとって、AI(人工知能)という言葉は誤称であり、それは「人工的な賢さ(artificial cleverness)」かもしれませんが、ルールに従っているだけで、‌‌いかなる理解も伴っていない‌‌と考えています。意識、または物事の認識は、コンピューターで達成できるものを超えた何かを与えます。

2. 意識と物理学:波動関数の収縮

Penroseは物理学者であるため、私たちの頭の中で起こっていることはすべて物理法則に従っていると信じています。そこで彼は、理解に必要な非計算的な要素を物理法則の中に見つけようとしました。

  • ‌計算可能な物理学:‌‌ ニュートン力学、マクスウェル方程式、相対性理論、そして量子力学のシュレディンガー方程式といった従来の物理理論は、計算可能であると見なされています。
  • ‌唯一のギャップ:‌‌ Penroseが見つけた非計算的な現象の候補、すなわち物理学の議論における「ギャップ」は、‌‌波動関数の収縮(collapse of the wave function)‌‌でした。これは、彼が意識の議論に参入したきっかけとなりました。
  • ‌ウィグナーの見解の否定:‌‌ 意識が量子系を観測することで波動関数を収縮させる(ウィグナーらが提唱した見解)という考えを、Penroseは支持していません。彼は、遠い惑星の天気が観測者なしに量子重ね合わせの状態にあり、探査機が地球に戻って初めて意識を持つ存在によって観測され、突然一つの状態に収縮するという状況は「全く意味をなさない」として、この観点を退けています。
  • ‌Penroseの主張:‌‌ Penroseの視点は、ウィグナーの見解とは「ほぼ反対」です。それは、‌‌意識が何であれ、それは波動関数の収縮に依存している‌‌というものです。この収縮こそが、‌‌明らかに計算可能ではない‌‌唯一の要素であると彼は見ています。

3. 客観的収縮と現実の区別

Penroseのモデルでは、波動関数の収縮は観測者によるものではなく、系が‌‌ある意味で「大きくなりすぎる」‌‌ことによって生じる、物理学の一部として発生する現象です。

  • ‌重ね合わせの寿命:‌‌ 彼は、コップのような物体が二つの異なる位置の重ね合わせにある場合、それがどちらか一方になるまでの「寿命」を、重力を考慮して計算しました(Diósi/Penroseの寿命)。
  • ‌現実の種類:‌‌ Penroseのスキーム(彼の理論ではないが、彼の視点に含まれる)は、Diósiのスキームが予測するような、継続的な収縮によって生じる不要な熱(Heating)の問題を回避するために、‌‌非常に奇妙な何か‌‌を必要とします。これには、‌‌因果律が過去に戻る(retrocausal)‌‌かのように見える現象が含まれる可能性があり、これを理解するためには、彼は‌‌古典的現実(Classical reality)‌‌と‌‌量子的現実(Quantum reality)‌‌の二種類を区別する必要があるとしています。
    • 古典的現実: コップの形など、はっきりとした特性を持つもの。
    • 量子的現実: 電子のスピン状態の重ね合わせのように、質問の仕方を提案しなければ答えを得られないもの。量子的現実は、‌‌奇妙な因果的振る舞い‌‌を持ち、過去に遡るように見えることがあります。

4. 生物学的基盤

Penroseは、当初は神経生理学を学んでも意識の答えを見つけられなかったと認めていますが、後にスチュアート・ハメロフ(Stuart Hameroff)から学んだ内容に注目しています。

  • ‌微小管と錐体細胞:‌‌ 彼は、‌‌微小管(microtubules)‌‌が意識と関連する可能性が非常に高いと考えました。また、ハメロフは、‌‌錐体細胞(pyramidal cells)‌‌(小脳には見られない特定の細胞)が意識に関して非常に重要であると考えているとし、Penroseはこの示唆を‌‌かなり妥当(quite plausible)‌‌だと感じています。
  • ‌小脳との対比:‌‌ 小脳(cerebellum)は、コンピューター科学者が組織するような方法で非常に整然と組織されており、完全に‌‌無意識的‌‌(unconscious)であり、コンピューターに似ているかもしれない、と彼は指摘しています。これに対して、錐体細胞は意識に関わる主要な関連構造であると示唆されています。

このように、Penroseにとって意識は、‌‌ゲーデルの定理が示す非計算的な「理解」‌‌に根ざしており、その物理的な基盤は‌‌量子力学における波動関数の客観的収縮‌‌という、いまだ未解決の領域にある、という位置づけです。

物理学と計算可能性

AI

Roger Penroseの意識と物理学に関する見解の文脈において、これらのソースは、‌‌物理学の大部分は計算可能である‌‌という彼の認識と、‌‌意識に必要な非計算的要素が、物理学の未解決の側面(波動関数の収縮)の中に存在しなければならない‌‌という彼の中心的な主張を明確にしています。

彼の見解は、計算可能性と物理法則の境界線を探る試みとして構築されています。

1. ほとんどの物理法則は計算可能である

Penroseは物理学者として、私たちの頭の中で起こっていることはすべて物理法則に従っていると信じています。しかし、彼は大半の確立された物理学の理論が‌‌計算的‌‌(computational)な性質を持つと見なしています。

  • ‌従来の理論:‌‌ ニュートン力学、マクスウェル方程式、特殊相対性理論、一般相対性理論、そして量子力学の‌‌シュレディンガー方程式‌‌といった主要な物理理論は、計算可能であるとされています。
  • ‌複雑な計算:‌‌ 当時の一般相対性理論に関する計算はまだ発展途上にあったかもしれませんが、Penroseはそれが依然として‌‌計算的な問題‌‌であると認識していました。現代では、ブラックホールが互いに螺旋状に巻き付くような問題に対して、計算機が素晴らしい成果を上げていることも、これらの理論が計算可能であることを裏付けています。シュレディンガー方程式についても、変数が多くても、それは‌‌同じ種類の‌‌計算的な問題であると述べています。

2. ゲーデルの定理と計算不可能性の確信

Penroseが物理学の計算可能性の議論に参入する動機となったのは、彼の意識に関する初期の考え、特に‌‌ゲーデルの定理‌‌から得た結論です。

  • ‌理解の定義:‌‌ Penroseは、ゲーデルの命題の真実性を知るプロセス(つまり‌‌理解‌‌)は、それ自体が‌‌計算的なものではない‌‌と結論付けました。
  • ‌意識との関連:‌‌ 彼は、何かを「理解している」と言うためには、その実体がそれを‌‌認識(aware)‌‌していることが通常の使用法であると考え、物事を認識することは、コンピューターで達成できるものを超えた何か(非計算的要素)を与えると主張しています。
  • ‌物理法則への要求:‌‌ この非計算的な理解の要素を説明するためには、頭の中で起こっていることが物理法則に従っているという信念に基づき、‌‌物理法則自体の中に計算可能ではない唯一のギャップ‌‌を見つける必要がありました。

3. 物理学における唯一のギャップ:波動関数の収縮

Penroseは、ほとんどの物理学が計算可能である中で、‌‌波動関数の収縮(collapse of the wave function)‌‌こそが、議論における‌‌唯一の明白なギャップ‌‌であると特定しました。これは、彼が意識の議論に参加するきっかけとなりました。

  • ‌計算不可能な要素:‌‌ 彼は、意識が何であれ、それはこの‌‌波動関数の収縮に依存している‌‌のであり、この収縮こそが‌‌明白に計算可能ではない唯一の要素‌‌であると見ています。
  • ‌客観的収縮:‌‌ Penroseは、この収縮が観測者(意識)によって引き起こされるという考え(ウィグナーの見解)を否定します。彼の見解では、収縮は、システムが‌‌ある意味で「大きくなりすぎる」‌‌ことによって生じる、物理学の一部としての現象です。

4. 収縮モデルと因果律、現実の種類

Penroseが開発した客観的収縮の議論(Diósi/Penroseの寿命)は、物理学的な厳密さを追求する中で、さらに計算可能性と現実の性質に関する複雑な問題を引き起こします。

  • ‌寿命の計算:‌‌ 彼は、コップのような物体が2つの異なる位置の重ね合わせにある場合、それがどちらか一方になるまでの‌‌寿命‌‌を、重力のみを考慮して計算しました。
  • ‌加熱問題の回避とレトロ因果性:‌‌ Diósiのスキームでは、収縮が常に起こることによりわずかな‌‌加熱‌‌が生じると予測されましたが、実験でその加熱は観測されず、この問題は彼のスキームを反証しました。Penroseのスキームは加熱の問題を回避しますが、そのためには‌‌非常に奇妙な何か‌‌、例えば‌‌因果律が過去に戻る(retrocausal)‌‌かのように見える現象が必要となる可能性があります。
  • ‌現実の区別:‌‌ この複雑な因果的振る舞いを扱うために、Penroseは‌‌古典的現実(Classical reality)‌‌と‌‌量子的現実(Quantum reality)‌‌の二種類を区別する必要があると提案しています。
    • ‌古典的現実:‌‌ コップの形状のように、明確な特性を尋ねることができる現実(計算可能性が高い)。
    • ‌量子的現実:‌‌ 電子のスピンのように、質問の仕方を提案しなければ答えを得られない現実。量子的現実は‌‌非常に奇妙な因果的振る舞い‌‌を示し、過去に遡るように見えることがあります。

Penroseにとって、意識は、‌‌計算不可能な理解‌‌であり、それは従来の計算的な物理法則の隙間(波動関数の客観的収縮)を利用して、‌‌量子的現実‌‌の奇妙な因果的振る舞いを介して実現される、という構造になっています。

‌**‌*

Penroseが物理学と計算可能性を区別する様子は、‌‌巨大なコンピューター・プログラム‌‌を想像すると理解しやすくなります。ニュートン力学からシュレディンガー方程式まで、世界のほとんどの現象はそのプログラム(物理法則)によって処理され、予測されます(計算可能)。しかし、そのプログラムには、‌‌「真実の認識」‌‌という特定のタスクを実行するために、‌‌外部からの入力(非計算的な要素)‌‌が必要な「バグ」あるいは「抜け穴」が一つだけ組み込まれている、と彼は考えているのです。その抜け穴こそが波動関数の収縮であり、意識の物理的基盤であると示唆されています。

現実の 2種類

AI

Roger Penroseの意識と物理学に関する見解というより大きな文脈において、これらのソース意識と物理学に関する見解というより大きな文脈において、これらのソースが「現実の二種類」について言及しているのは、‌‌意識に必要な非計算的な現象‌‌、特に‌‌波動関数の客観的収縮‌‌を説明するために、従来の物理学の概念を超えた‌‌新しい現実の分類‌‌が必要であるという彼の結論に基づいています。

彼が区別する必要があるとしている現実の種類は、‌‌古典的現実(Classical reality)‌‌と‌‌量子的現実(Quantum reality)‌‌の二種類です。

1. 現実を二種類に分ける必要性

Penroseが現実の二種類を区別する必要があると感じたのは、彼自身の提案する‌‌客観的収縮スキーム‌‌における特定の物理的な問題を解決するためです。

  • ‌Diósiスキームとの対比:‌‌ Diósi/Penroseの寿命計算(重力を考慮した重ね合わせが崩壊するまでの時間)は、独立して発見されましたが、Diósiのスキームでは、この収縮が常に起こるためにわずかな‌‌加熱‌‌が生じると予測されました。しかし、実験によってこの加熱が起こらないことが測定され、Diósiスキームは反証されました。
  • ‌Penroseスキームの要求:‌‌ Penroseのスキームは加熱の問題を回避しますが、そのためには‌‌非常に奇妙な何か‌‌が必要となります。この「非常に奇妙な何か」には、‌‌因果律が過去に戻る(retrocausal)‌‌かのように見える現象が含まれる可能性があります。
  • ‌因果律の整合性:‌‌ このような「レトロ因果的」な振る舞いを‌‌意味のあるもの‌‌にするためには、‌‌古典的現実‌‌と‌‌量子的現実‌‌の二種類を区別しなければならない、とPenroseは述べています。

2. 古典的現実(Classical Reality)

古典的現実とは、私たちが日常的に経験し、明確な特性を持つ物体に関する現実です。

  • ‌明確な特性:‌‌ Penroseはコップを例に出して説明しています。「こんにちは、コップ。あなたの形は何ですか?」と尋ねれば、コップは「だいたい上が円形で、特定のカーブがあり、取っ手を除けば軸対称です」と答えることができます。
  • ‌物理学との対応:‌‌ 古典的現実は、明確な形や位置を持つ物体を扱う、計算可能性の高い従来の物理法則(ニュートン力学、一般相対性理論など)に対応する現実と見なされます。

3. 量子的現実(Quantum Reality)

量子的現実は、重ね合わせの状態にある量子系が持つ、より曖昧で、質問の仕方によって答えが異なる現実です。

  • ‌重ね合わせ:‌‌ 量子現実は、例えば電子のスピン状態によって最もよく説明されます。電子のスピン状態は空間のあらゆる方向にある可能性がありますが、それは‌‌量子の重ね合わせ‌‌の状態です。
  • ‌質問への応答:‌‌ 古典的現実とは異なり、量子的現実に対しては「こんにちは、粒子。あなたはどの方向にスピンしていますか?」と尋ねることはできません。尋ねても、粒子は「私はそのような質問には答えません」というように、ぼんやりと見つめ返すだけです。
  • ‌アインシュタインの基準:‌‌ アインシュタインは、システムを乱すことなく測定を行うことで「はい」と確実に答えが得られる場合、その状態が「現実性(reality)」を持つという基準を設定しました。Penroseは、この基準を‌‌量子的現実‌‌の基準として捉え直しています。粒子に対してある特定の方向を示唆した場合、もしそれが正しければ「はい」と確信を持って答えますが、間違っている場合でも、確率に応じて「はい」または「いいえ」と答える可能性があります。
  • ‌奇妙な因果的振る舞い:‌‌ 量子的現実は、‌‌非常に奇妙な因果的振る舞い‌‌を持ち、‌‌過去に遡る‌‌かのように見えることがあります。

4. 意識との関連

この二種類の現実の区別は、非計算的な要素(意識の基盤)が物理学に導入される方法を理解するために重要です。

意識の基盤である客観的収縮は、‌‌量子的現実‌‌の領域(重ね合わせの状態)から‌‌古典的現実‌‌の領域(明確な結果)への移行を意味します。量子的現実が持つ「奇妙な因果的振る舞い」は、古典的現実の因果律の異常(過去への予測や遡及)を引き起こさないように慎重に扱われる必要があります。Penroseは、この奇妙な状況について、彼の著書『Fashion, Faith and Fantasy』に記載されているものの、より完全に説明するために論文を執筆することを考えていると述べています。

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‌例え:‌

Penroseの言う「現実の二種類」は、‌‌霧がかかった森‌‌と‌‌晴れた日の大通り‌‌を区別するようなものです。

  • ‌古典的現実(晴れた大通り)‌‌は、コップの形のように、すべてが明確で、予測可能で、測定可能な現実です。
  • ‌量子的現実(霧がかかった森)‌‌は、電子のスピンのように、道(方向)を示唆しなければ、その場所や状態を確実に知ることができず、過去から現在への因果関係が不明瞭に見える、奇妙で不確定な現実です。

Penroseは、意識は、この霧が晴れて、不確定な状態が明確な状態に「収縮」する瞬間に発生する、非計算的な現象であると見ています。

情報源

動画(22:17)

“I Probably Shouldn’t Have Touched Consciousness” | Roger Penrose

https://www.youtube.com/watch?v=92-02TOjntI

87,400 views 2025/11/17

(2025-11-18)