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Emin Yilmaz : 地政学と金融から見る10年後の世界

· 99 min read

前置き

どこまで当たるか、10年後に確認できるように記録しておく。

要旨

AI

地政学と金融から見る10年後の世界

このYouTube動画の文字起こしでは、エコノミストのエミン・ユルマズ氏が、‌‌地政学的な視点‌‌から今後10年間の世界経済について解説しています。

議論は‌‌米ドルの覇権の衰退‌‌と、これが金価格の上昇(グレシャムの法則を引用)や、世界の中央銀行によるゴールドへの回帰にどう繋がっているかを中心に展開されます。

特に、‌‌トランプ政権の外交スタイル‌‌が、アメリカのソフトパワーと軍事力による信用を損ない、結果的に‌‌中国株の上昇‌‌など、国際的な勢力図の変化を引き起こしているという分析が目立ちます。

さらに、米国の‌‌財政悪化‌‌やポピュリズムの台頭が、台湾有事といった‌‌地政学的なリスクを高めている‌‌ことが指摘されています。

目次

  1. 要旨
  2. 地政学から見る今後10年の世界:エミン・ユルマズ氏による分析
    1. エグゼクティブサマリー
    2. 1. ゴールド回帰と法定通貨への不信:現代のグレシャムの法則
    3. 中央銀行の動向
    4. 2. 米国の派遣の揺らぎと「トルコ化」
    5. 3. 米中対立の行方と地政学リスク
    6. 4. 日本が取るべき戦略:自主防衛力の確立
    7. 5. 株式市場の見通し
  3. 金価格高騰と脱ドル化の潮流:地政学的リスクが変える金融市場の未来
    1. 1. 序論:現代に蘇る「悪貨が良貨を駆逐する」現象
    2. 2. 世界的な潮流としての「脱ドル化」とその実態
    3. 3. 米ドルの価値を支える地政学的基盤とその揺らぎ
    4. 4. 「トルコ化するアメリカ」と地政学リスクの増大
    5. 5. 結論:金融市場のパラダイムシフトと投資家へのインプリケーション
  4. 株価の動向と要因
    1. 1. 日本株の動向と追い風要因
    2. 2. 世界的な流動性とバブルの終焉
    3. 3. 米国の覇権弱体化と中国株の動向
  5. ゴールド回帰
    1. 1. ゴールド回帰の本質:ローマ帝国末期とグリシャムの法則
    2. 2. 脱ドル化の進行と中央銀行の動き
    3. 3. 米国の覇権とドルの価値の連動
  6. 米国の地政学的地位の動揺
    1. 1. ドルの信頼性の根幹(軍事力と財政)の動揺
    2. 2. トランプ主義によるソフトパワーの低下と外交の失敗
    3. 3. チェックアンドバランス(抑制と均衡)機能の崩壊
  7. 米中対立と中国の動向
    1. 1. トランプ外交の失敗と中国のソフトパワー回復
    2. 2. 脱ドル化と米国依存度の低下
    3. 3. 台湾有事のリスクと「ディール」の危険性
    4. 4. 中国の内部問題(構造的な弱点)
  8. 台湾有事と日本の取るべき道
    1. 1. 台湾有事のリスクとその要因
    2. 2. 日本が取るべき道:「独りんご」戦略
  9. カネと文明の進化
    1. 1. お金は人類文明の「最大の発明」である
    2. 2. お金の進化の歴史と加速するスピード
    3. 3. 文明の崩壊と現在の「ゴールド回帰」の本質
  10. 情報源

地政学から見る今後10年の世界:エミン・ユルマズ氏による分析

AI

エグゼクティブサマリー

本ブリーフィングは、エコノミスト、エミン・ユルマズ氏が地政学的観点から分析する今後10年の世界像をまとめたものである。中心的な論点は、現代世界が「グレシャムの法則」に象徴される歴史的な転換期にあるという認識である。過剰な金融緩和により法定通貨への信頼が揺らぎ、人々は本能的にゴールドなどの実物資産に価値を求める「ゴールド回帰」が加速している。

この潮流の中で、トランプ政権下の米国は世界の警察としての役割を放棄し、自国の覇権の根幹であるドル体制を内側から蝕んでいる。その外交・内政スタイルはポピュリズムと公私の混同が顕著であり、氏が「トルコ化」と呼ぶ現象、すなわち先進国が持つべきチェックアンドバランス機能の崩壊を示唆している。

米国のソフトパワー低下は相対的に中国を利しているが、その中国もまた不動産バブル崩壊やデフレ、国内政治の不安定化といった深刻な問題を抱えている。米中両大国が共に不安定な状況にあることは、台湾有事のような偶発的な紛争リスクを高めており、特に中国にとっては「ディール」が可能なトランプ政権下の方が行動を起こしやすい環境が生まれていると分析される。

このような不確実性の高い世界において、日本は米国への過度な依存を見直し、自らの防衛力を強化して他国が容易に手を出せない「毒リンゴ」となることが、国家の生存戦略として不可欠であると結論付けられている。

1. ゴールド回帰と法定通貨への不信:現代のグレシャムの法則

現在の金融市場で起きているゴールド価格や株価の高騰は、単なる好景気の反映ではなく、法定通貨そのものへの不信感という、より根源的な構造変化の現れであると分析される。

グレシャムの法則の現代的適用

氏が現在の状況を説明するために用いる中心的な概念が「グレシャムの法則(悪貨が良貨を駆逐する)」である。

  • 歴史的背景: 古代ローマ末期、財政悪化した政府が金貨や銀貨に含まれる貴金属の含有量を減らした。人々は貴金属の含有量が多い古い「良いコイン(良貨)」を退蔵し、含有量の少ない新しい「悪いコイン(悪貨)」を支払いに使ったため、市場から良貨が消え、悪貨だけが流通しインフレを招いた。
  • 現代への応用: 現代における「悪貨」は、リーマンショック以降に各国政府・中央銀行が過剰に発行したドルや円などの法定通貨に相当する。人々はこれらの紙幣の価値が将来的に毀損することに気づき始めており、「とりあえずまだドルが価値あるうちにドルを何か価値のあるものと交換したい」という心理が働いている。
  • 良貨の退蔵: 現代の「良貨」にあたるゴールド、不動産、株式などの実物資産やリスク資産に資金が流入し、価格が高騰している。特にゴールドは「懐にしまっておこう」という退蔵の対象となっており、この動きが世界的なゴールド回帰の本質である。氏は「私たちの遺伝子に組み込まれてます」「その本能が今発動してるんですね世界中で」と述べ、この動きが人間の本能的な危機察知能力に基づくと指摘する。

中央銀行の動向

この動きは個人投資家だけでなく、各国の中央銀行においても顕著である。

  • 外貨準備のシフト: 従来、外貨準備高の主流であった米ドルや米国債への信頼が揺らぎ、各国の中央銀行は近年ゴールドの購入を急増させている。過去3年間の中央銀行によるゴールド購入量は、その前の10年間の平均の約2倍に達している。
  • 歴史的転換点: 2024年には、世界の中央銀行が保有するゴールドの残高が、1996年以来約30年ぶりに米国債の残高を上回った。これは、脱ドル化が金融システムの根幹で静かに、しかし着実に進行していることを示す象徴的な出来事である。

2. 米国の派遣の揺らぎと「トルコ化」

トランプ政権の登場は、米国の世界における役割と国内の統治システムに深刻な変化をもたらしている。これは、米国の覇権そのものを内側から崩壊させる危険性を孕んでいる。

米ドル覇権の構造とトランプ戦略の矛盾

米ドルの価値は、その経済力だけでなく、米国の軍事力によって担保されているという構造的な理解が不可欠である。

  • 価値の裏付け: 「ベードルの裏付けっていうのはあのベドルがその辺にある空母なんですよ」。米国海軍が世界の貿易ルートの安全を保障することで、各国は米ドルを基軸通貨として使用し、米国債を購入するという形で米国に「年貢を納めて」いる。
  • トランプの誤解: トランプ及びその支持者は、世界の警察としての米軍の役割を「事前事業」のように捉え、その負担を削減しようとしている。しかし、この役割を放棄することは、ドルの価値を支える根幹を自ら破壊する行為に他ならない。
  • 世界の警察と強いドルの関係: 「世界の警察やめて強いドルを維持できることはありえない」。警察の役割を放棄すれば、世界は米国に年貢を納める必要がなくなり、米国は実力以上の生活水準を維持できなくなる。
  • パトロンの逆転: 米国は自らを世界のパトロンだと勘違いしているが、実態は逆である。世界各国が汗水流して作った製品やサービスを「アメリカの無価値の紙幣と交換している」ため、実質的なパトロンは世界の方である。

米国の「トルコ化」

トランプ政権下で見られる政治・社会の変容は、エルドアン大統領政権下のトルコと酷似していると指摘される。

  • 類似点:
    • ポピュリズム政治: カリスマ的なリーダーが熱狂的な支持層を基盤に権力を維持する。
    • 利益相反の常態化: 大統領ファミリーが公的な地位を利用してビジネスで利益を得るなど、汚職がシステム化している(例:トランプファミリーによる仮想通貨ビジネス)。「ここまであからさまに大統領は公職と利益相反のあることが行われてこれってもうあのトロコのエルドアン政権と一緒ですよ」。
    • メディア支配: 批判的なメディアを抑圧・買収し、権力監視機能を無力化する(例:SNSの支配、主要メディアの買収)。
  • システムの崩壊: かつてウォーターゲート事件などで機能した米国のチェックアンドバランス機構が崩壊しつつある。トランプは、USAID(米国国際開発庁)の予算カット、研究開発予算の削減、教育省の廃止などを進め、米国のソフトパワーと国力を支える基盤を解体している。
  • トランプ主義の存続: トランプ個人が退場しても、彼が生み出した「トランプ主義」は米国政治に残り続ける可能性がある。しかし、後継者候補とされるJ.D.バンスなどにはトランプほどのカリスマはなく、「マガムーブメントねつまんないですみんなトランプみたいな面白い人いない」とされ、ムーブメントの持続性には疑問符がつく。

米国の復元力

一方で、米国が持つ潜在的な強さ(復元力)も過小評価すべきではない。

  • 優秀な人材: 米国には「レベルが本当に次元が違うぐらいにあの頭のいい人たち」が存在し、国が道を踏み外した際に修正する能力がある。
  • 道徳的基盤: アングロサクソン・プロテスタントに根差す基礎的な道徳観はまだ失われておらず、これが米国のコアな強みとして機能し、いずれ国を救う方向に働くと期待される。

3. 米中対立の行方と地政学リスク

米国の内向き志向と外交スタイルの変化は、米中関係のパワーバランスに大きな影響を与えている。

トランプ外交が中国にもたらした利

バイデン政権の静かで戦略的な対中政策に対し、トランプ政権の外交はショーのようになり、結果的に中国を利する側面があった。

  • ソフトパワーの回復: コロナ禍で失墜した中国のソフトパワーは、トランプの同盟国に対する高圧的な外交への反発から、回復傾向にある。欧州やカナダが中国製EVへの門戸を開こうとしているのは、その一例である。
  • 米国の威信失墜: トランプが関税などで大騒ぎした結果、中国はレアアースという強力なカードを切らざるを得なくなった。これにより、世界は中国が持つカードの強さを認識し、米国が引き下がったことで「アメリカのメンツが丸つぶれになっちゃった」。
  • 戦略性の欠如: 本来、米国は30年、40年先を見据えた長期的なビジョンで動く国だが、トランプ外交は短絡的で、敵国であるはずの中国と金銭的なディール(取引)をしようとするなど、これまでの米国の外交原則から逸脱している。

両大国が抱える国内問題

米中対立は、単純な二項対立ではなく、両国がそれぞれ深刻な国内問題を抱える中で展開されている。

  • 米国: 国内の政治的分断が深刻化。
  • 中国: 不動産バブルの崩壊、デフレ経済への突入、若年失業率の高さ、そして習近平氏の権力集中に対する共産党内での不満など、多くの脆弱性を抱えている。

台湾有事の現実的可能性

両大国が不安定であるからこそ、偶発的な軍事衝突のリスクは高まっている。

  • 「十分あります」: 今後10年以内の台湾有事の可能性について、氏は「十分あります」と断言。
  • トランプ政権下の好機: 中国から見れば、予測不能で「ディールできる」トランプ政権の方が、行動を起こすには好都合である。「だって結局ウクライナだって...ウクライナをいじめてるからトランプ政権は」。
  • ディールの危険性: トランプ大統領は、ウクライナに対して行ったように、台湾を中国との取引材料にする可能性がある。その延長線上には、尖閣諸島や日本そのものがディールの対象となるリスクも存在する。

4. 日本が取るべき戦略:自主防衛力の確立

米国の信頼性が揺らぐ中、日本は従来の対米追従路線を見直す必要がある。

  • 米国依存のリスク: 立場が弱まっていると感じる日本は、より一層米国に寄り添う傾向が強まっている。しかし、その米国が不安定である以上、この戦略は極めて危険である。
  • 「毒リンゴ」戦略: 日本が生き残るための唯一の道は、自らの防衛力を抜本的に強化し、中国などの他国に「手を出させない」抑止力を持つことである。「もう日本をそう日本を独りんごにしてもう中国に対してもう私たちには手出すなと」。
  • 自衛の必要性: 米国が尖閣諸島を中国との取引材料にする可能性も否定できない。「アメリカにこれぐらい投資するからもう尖閣諸島は中国のもんだって言ったらどうするの?日本が」「防衛力強化するしかないんですよ」。

5. 株式市場の見通し

日経平均株価が5万円を突破した背景には、短期的な好材料がある一方で、世界的なバブルの最終局面に差し掛かっている可能性への警戒も必要である。

  • 株価上昇の要因:
    1. トランプ政権の影響: 減税や規制緩和といった企業寄りの政策が株価への追い風となる。
    2. 日本の政権: 日本でもビジネスフレンドリーな政権が誕生したこと。
    3. AI半導体バブル: 関連セクターが急騰する「パラボリックフェーズ」に入っている。
  • 警戒すべき点: パラボリックフェーズはバブルサイクルの最終局面で起きる現象であり、急騰の裏には急落のリスクが潜んでいる。
  • 日本株の特性: 日本株は米国株ほどAI・半導体セクターへの依存度が高くなく、「オールドエコノミー」の比率が高い。そのため、AIバブルの恩恵は米国ほどではないが、仮にバブルが崩壊した際の悪影響も米国よりは限定的であると見られている。

金価格高騰と脱ドル化の潮流:地政学的リスクが変える金融市場の未来

AI

1. 序論:現代に蘇る「悪貨が良貨を駆逐する」現象

現在の金(ゴールド)価格の高騰は、単なる市場の一時的な過熱現象ではない。これは、歴史的な経済法則である「グレシャムの法則」が現代の金融市場において顕在化したものであり、この視点を持つことは、今後の資産ポートフォリオを考える上で極めて戦略的な意味を持つ。

グレシャムの法則、すなわち「悪貨が良貨を駆逐する」という原理は、価値の異なる通貨が混在する市場で、人々が価値の高い「良貨」を退蔵し、価値の低い「悪貨」を流通させようとすることで、市場から良貨が姿を消す現象を指す。この法則は、財政が悪化した古代ローマ末期に顕著に見られた。政府が金貨や銀貨に含まれる貴金属の含有量を減らして通貨を乱発した結果、人々はその価値を確かめるようになった。昔の人が金貨を受け取ると歯で噛んだのは、まさにこのためだ。金は柔らかいため、本物の金貨なら歯形が残る。人々は歯形で価値を確かめ、古い、含有量の多い良貨をしまい込み、含有量の少ない悪貨を支払いに使うようになったのだ。

この歴史的な現象が、現代の金融市場で形を変えて再現されている。

  • 悪貨: リーマンショック以降、世界各国の中央銀行によって過剰に発行され、本質的な価値が希薄化しつつある現代の法定通貨(米ドルや円など)がこれに相当する。人々は、これが「ただの紙切れ」になりかねないという、数千年の歴史を通じて遺伝子に刻まれた本能的な不安を抱き始めている。
  • 良貨: 価値の裏付けが明確な金や、インフレヘッジとして機能する株式、不動産といった実物資産が現代の「良貨」である。
  • 市場の動き: 人々は価値が下がり続ける可能性のある「悪貨」(法定通貨)をいち早く手放し、価値が保存されるであろう「良貨」(実物資産)に交換しようとする。この動きこそが、現在の金や株、不動産といった資産価格を高騰させている根本的な原因に他ならない。

この現象を加速させた背景には、リーマンショック以降に常態化した世界的な金融緩和がある。かつてのローマ帝国が財政難を乗り切るために通貨の質を落としたように、現代の各国政府もまた、経済危機に対応するために天文学的な量の通貨を刷り続けてきた。その結果、法定通貨への信頼が静かに、しかし確実に蝕まれ始めている。この通貨に対する不信感は、世界的な「脱ドル化」という大きな潮流へと繋がり、金融市場の構造そのものを変えようとしている。

2. 世界的な潮流としての「脱ドル化」とその実態

世界の中央銀行を中心に進む「脱ドル化」の動きは、単なる資産配分の見直しではない。これは法定通貨、特に基軸通貨である米ドルに対する構造的な不信感の表れであり、長期的な金融秩序の変化を告げる序章と捉えるべきだ。この潮流は、もはや無視できないマクロトレンドとして、すべての投資家のポートフォリオ戦略に影響を与え始めている。

ここで重要なのは、脱ドル化の真の目的を理解することだ。これは「米ドルからの100%の離脱」を目指すものではない。なぜなら、中国をはじめとする多くの国が依然として大量のドル資産を保有しており、ドルの完全な崩壊は自国の損失にも直結するため、誰も望んでいないからだ。真の狙いは、‌‌「米ドルおよび米国が支配する国際決済システムへの依存度を段階的に引き下げること」‌‌にある。将来の不確実性に備え、ドルの支配力を相対的に弱め、自国の金融的な安全性を高めることが各国の共通した思惑だ。

この潮流を裏付ける具体的な動きとして、各国中央銀行の行動が挙げられる。

  • 金の大量購入: ここ3年間における世界の中央銀行による金の購入量は、それ以前の10年間の平均と比較して約2倍に達している。これは、外貨準備におけるドルの比率を下げ、実物資産である金の保有を増やすという明確な意思の表れである。
  • 準備資産の歴史的な転換: 2024年、世界の主要中央銀行が保有する金の残高(時価評価額)が、米国債の残高を1996年以来、約30年ぶりに上回った。これは、金の価格上昇も一因だが、それ以上に、準備資産の主役が米国債から金へとシフトしつつある歴史的な転換点を示している。

これらの動きは、米ドルの基軸通貨としての地位が、緩やかに、しかし確実に揺らいでいる動かぬ証拠だ。では、これまで米ドルの絶対的な価値を支えてきた根本的な要因とは何だったのか。その基盤の変質こそが、この潮流の核心にある。

3. 米ドルの価値を支える地政学的基盤とその揺らぎ

通貨の価値は、その国の経済力だけで決まるものではない。特に基軸通貨である米ドルの価値は、究極の地政学的な裏付けによって保証されてきた。その裏付けとは、抽象的な「軍事力」という言葉では生ぬるい。ドルの価値を保証しているのは、世界のどこかの海に浮かぶ航空母艦であり、トマホーク巡航ミサイルであり、F-35戦闘機なのだ。この関係性を理解することは、今後の金融市場のリスクを評価する上で不可欠である。

米ドルの価値の源泉は、二つの層で説明できる。

  • 第一層:世界の警察としての米軍 アメリカの圧倒的な軍事力、とりわけ米海軍は、全世界の貿易ルートの安全を保障する「世界の警察」としての役割を担ってきた。これがなければ、今日のグローバルなサプライチェーンは成り立たない。この安全保障こそが、世界が米ドルを基軸とするシステムを受け入れる根幹的な理由である。
  • 第二層:「年貢」としてのドル利用 世界各国は、この安全保障というサービスへの対価として、国際決済に米ドルを使い、余剰資金で米国債を購入するという形で、いわば米国に「年貢」を納めてきた。この構造を支えているのは、しばしば誤解されているが、アメリカではない。‌‌世界の国々こそが「パトロン」なのだ。‌‌我々が汗水流して生み出した製品やサービス、資産を、アメリカの「無価値な紙切れ」と交換している。この「年貢」があるからこそ、米国は自国の生産力を超えた豊かな生活を享受できているのだ。

しかし、この盤石に見えた構造は、トランプ主義が掲げる「世界の警察をやめる」という方針によって、根本から揺さぶられている。この方針は、極めて大きな矛盾を内包している。アメリカが自らの「仕事」である安全保障を放棄するということは、世界の「パトロン」たちが米国に「年貢」を納める理由を失わせることに他ならない。警察官を辞めれば、給料(ドルの特権)が払われなくなるのは当然の帰結だ。この論理を理解せず、目先の軍事費削減のみを追求する姿勢は、結果的にドルと米国の覇権そのものの崩壊に繋がりかねない。

この米国の戦略的な誤謬は、外交姿勢の変質、すなわち「トルコ化」とも呼べる現象を引き起こし、地政学リスクを新たな次元へと引き上げている。

4. 「トルコ化するアメリカ」と地政学リスクの増大

かつてのアメリカは、数十年先を見据えた長期的な国家戦略に基づき行動する国だった。しかし近年、その姿は大きく変貌し、短期的な支持率や個人的なディールを優先するポピュリズムに傾倒している。この現象は、エルドアン政権下のトルコに見られる特徴と酷似しており、‌‌「アメリカのトルコ化」‌‌と呼ぶべき状況だ。この変化は国際社会の安定を著しく損ない、予測不可能な地政学リスクを増大させている。

アメリカの「トルコ化」を象徴する事象は、以下の通りである。

  • 外交スタイルの変質: 本来、水面下で慎重に進められるべき外交が、衆目を集める「プロレス」のようなショーと化している。国家間の信頼関係や長期的な国益よりも、短期的な取引(ディール)を優先する姿勢が同盟国との間に深刻な亀裂を生んでいる。
  • 利益相反の常態化: 大統領ファミリーがその公的な地位を利用して個人的なビジネスで利益を得るなど、かつてのアメリカでは考えられなかった利益相反が公然と行われている。これは縁故主義が蔓延するエルドアン政権下のトルコと類似しており、国家の公正さへの信頼を根底から揺るがしている。
  • ソフトパワーの毀損: 一方的な外交姿勢は、世界中の国々の反発を招いている。その根本にあるのは、‌‌「皆が心の底でトランプ(主義)に猛烈にイラついている」‌‌という事実だ。この苛立ちが、カナダや欧州諸国が中国製EVへの規制を緩和するといった、いわば「当てつけ」のような行動を誘発している。結果、アメリカが失ったソフトパワーを、競合国である中国が取り戻すという皮肉な事態を招いている。
  • 覇権の土台の自己破壊: USAID(国際開発庁)や研究開発予算の削減、NASAの解体案、教育省の廃止案など、米国の覇権を支えてきた知力や影響力の源泉を自ら切り崩している。その一方で富裕層向けの減税は行われており、国家の長期的な基盤を犠牲にして短期的な利益を追求する姿勢が鮮明になっている。

このような米国の内政・外交の不安定化は、具体的な地政学リスクを誘発している。

  • 台湾有事の現実味: 最も懸念されるリスクの一つだ。長期的な理念や同盟関係を、短期的な「ディール」の材料と見なす指導者の下では、米国が何らかの取引の対価として台湾を譲り渡す可能性がゼロとは言い切れない。このような‌‌予測不可能性は、中国にとっては逆に行動を起こしやすい「チャンスの窓」‌‌と映る危険性がある。
  • 日本の安全保障への影響: 米国のコミットメントが不確実になる中、日本は自国の安全を自ら確保する必要に迫られている。これは、他国が容易に手出しできないよう防衛力を強化する‌‌「毒りんご」戦略‌‌(食べたら毒に侵されると思わせることで、捕食者を遠ざける戦略)を取らざるを得ない状況を意味する。

このように増大する地政学リスクと市場の不確実性は、もはや無視できない投資環境の一部となった。これは、投資家にとってどのような戦略的な意味を持つのだろうか。

5. 結論:金融市場のパラダイムシフトと投資家へのインプリケーション

これまでの分析を総括すると、現在の金価格高騰や脱ドル化の動きは、単なる周期的な市場変動ではない。これは、米国の絶対的な覇権とドル基軸通貨体制という第二次世界大戦後の国際秩序が構造的に変化しつつある、歴史的なパラダイムシフトの兆候に他ならない。私たちは、これまでの常識が通用しなくなる可能性を視野に入れた、新たな時代に突入しつつある。

この新しい時代を乗り切るために、投資家や金融専門家が認識すべき戦略的インプリケーションは以下の3点に集約される。

  1. 法定通貨への過信の見直し 世界の中央銀行が金を購入している事実は、プロの資産運用者が法定通貨の長期的な価値の希薄化リスクを真剣に懸念している証拠である。過剰に発行された通貨の購買力は、長期的には低下せざるを得ない。ポートフォリオにおける現金や預金の比率、そしてその通貨の選択について、根本的な見直しが求められる。
  2. 地政学リスクのポートフォリオへの織り込み かつては専門家の領域であった地政学リスクは、今や資産価格を直接的に揺るがす主要な変数となった。米国の内政不安や米中対立の行方は、もはや遠い国の話ではなく、自らの資産価値に直結するファクターとして常に分析し、ポートフォリオに織り込む必要がある。
  3. 価値の保存手段としての資産の再評価 金をはじめとする実物資産は、単なるインフレヘッジや投機対象にとどまらない。地政学的な不確実性が高まり、通貨システムへの信頼が揺らぐ時代において、それらは究極の‌‌「価値の保存手段」‌‌としての重要性を増している。歴史を通じて価値を維持してきた資産の役割を再評価すべき時である。

ただし、この分析は米国の一方的な衰退論に帰結するものではない。アメリカには世界最高レベルの極めて優秀な人材が数多く存在し、道を踏み外した際に軌道を修正する自己修復能力(レジリエンス)も備えている。その根底にあるアングロサクソン・プロテスタントの道徳規範という「コア」は、まだ失われてはいないだろう。この復元力が、いずれかの時点で機能する可能性も視野に入れるべきである。

私たちは今、歴史の大きな転換点に立っている。このような時代において最も危険なのは、過去の成功体験や常識にとらわれ続けることだ。地殻変動の兆候を的確に読み解き、変化に対応できる柔軟な戦略的思考こそが、未来の不確実性から自らの資産を守る上で不可欠となるだろう。

株価の動向と要因

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地政学から見る10年後の世界と経済という大きな文脈において、株価の動向と要因に関して、これらのソースは主に以下の3つの側面、すなわち‌‌日本の株価の特殊性‌‌、‌‌過剰な流動性による世界的バブルの進行‌‌、そして‌‌米国のソフトパワー衰退がもたらす中国株の上昇‌‌について論じています。

以下に、株価の動向とその要因に関する詳細を説明します。

1. 日本株の動向と追い風要因

日本株は、地政学的な変化と国内政策の影響を受け、予測よりも早く上昇する傾向が見られました。

  • ‌株価の急騰と予測の前倒し:‌‌ 2023年10月31日時点で、日経平均株価の終値が52,411円に達しており、これはエコノミストが2025年または2026年と予測していた5万円の節目を前倒しで突破したことを示しています。
  • ‌上昇の加速要因:‌‌ この株価の急騰には、‌‌トランプ氏の影響‌‌が大きいとされています。加えて、日本国内の‌‌積極財政とよりビジネスフレンドリーな政権‌‌の登場も追い風となっています。
  • ‌バブル崩壊に対する相対的な強さ:‌‌ 日本株の構成は、米国株ほどAIや半導体関連に集中していません。日本は良くも悪くも‌‌オールドエコノミー(旧来型経済)‌‌的であるため、2022年にナスダックが4割近く下落した際も、日本株の下落は2割にとどまりました。この性質により、日本の株価はテックバブルの恩恵を米国ほど大きくは受けないものの、バブル崩壊時の悪影響も米国ほどではないと考えられています。

2. 世界的な流動性とバブルの終焉

世界の株価、特にリスク資産の上昇の根底には、地政学的な不安定さと、それに対応するための‌‌過剰な金融緩和‌‌が強く影響しています。

  • ‌トランプ政策の株価への影響:‌‌ トランプ政権の政策は、関税面では株価を下げる要因となりましたが、それ以外の政策(規制緩和や減税など)は企業優遇的であり、株価を押し上げる追い風になると見られています。
  • ‌流動性による資産価格の冒頭(金余り):‌‌ リーマンショック以降、世界中でお金を刷りすぎたことによる‌‌「金余り」‌‌が根本的な要因です。米国は巨額の借金を抱え、利払いが増大しており、世界の富裕層や中央銀行が米ドルなどの紙幣の価値の希薄化を懸念しています。
    • 人々は、価値を失いつつあるドルや円といった紙幣を、価値のある資産(金、銀、プラチナ、不動産、‌‌株‌‌など)へと交換しようとする本能が発動しています。この動きが、株価や金価格を含むあらゆるリスク資産を冒頭させている現象の根底にあります。
  • ‌AI/半導体セクターの状況:‌‌ AIや半導体関連は現在、バブルのサイクルでいうところの‌‌「パラボリックフェーズ(放物線的な上昇局面)」‌‌に入っています。これは一種のメルトアップ(メリトアップフェーズ)であり、‌‌バブルの最終局面‌‌で起きる急激な上昇期であるため、警戒が必要であると指摘されています。
  • ‌ファンダメンタルの崩壊と株価の上昇のパラドックス:‌‌ トランプ政権下では、富裕層減税などが実施され、中間層のサポート予算はカットされています。この政策は、米国経済の基盤を崩壊させつつあるものの、企業がコストカットを行い、‌‌1株あたりの利益(EPS)が増加すれば、短期的には株価は上昇します‌‌。株価は一般人の感情とは関係なく、純粋に利益に反応するため、企業が大量に首を切っても株価は上がってしまうという皮肉な現象が起きています。

3. 米国の覇権弱体化と中国株の動向

地政学的な動きは、特に中国株に顕著な影響を与えています。

  • ‌中国株の急騰:‌‌ トランプ氏が当選してからの動きとして、‌‌香港株や中国株が最も上がっている‌‌ことが指摘されています。
  • ‌要因は米国の外交スタイル:‌‌ 中国株が上昇している背景には、コロナ禍で失われた中国のソフトパワーが、‌‌トランプ氏のこの1年間の外交によって大きく戻った‌‌ことがあります。
    • トランプ政権の「上から目線で失礼な外交スタイル」に対して世界中がイライラしており、その結果、アメリカの企業に被害が出るならば、中国企業とのビジネスを自由にしようという流れが生まれています(例:カナダやヨーロッパが中国の電気自動車への関税を撤廃する動き)。
    • この世界の米国に対する不満が、結果的に中国企業に有利に働き、中国株価を押し上げる要因となっています。

要するに、これらのソースは、現在の株価の上昇は、日本国内の政策的追い風や、AI技術のパラボリックな盛り上がりといった表層的な要因だけでなく、‌‌地政学的な不安定化と、世界的な通貨安懸念に起因する「リスク資産への資金逃避」‌‌というローマ帝国末期にも似た構造的な問題によって支えられていると示唆しています。特に、米国の政治的混乱と外交的後退が、皮肉にも中国株に恩恵を与えているという点も、地政学と株価の連動を示す重要な論点です。

ゴールド回帰

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地政学から見る10年後の世界と経済という大きな文脈において、「ゴールド回帰(脱ドル化)」に関するこれらのソースの主張は、‌‌現在の株価の上昇や金価格の急騰が、米国の財政的崩壊と、世界的な通貨システムへの信頼の欠如という、地政学的・歴史的な構造的危機によって引き起こされている‌‌という認識に集約されます。

これらのソースは、現在の現象を単なる「金ブーム」ではなく、‌‌「悪貨が良貨を駆逐する」という歴史的原理(グリシャムの法則)に基づく、避けられない資産退避行動‌‌であり、米ドルの覇権が徐々に衰退していくプロセスであると説明しています。

以下に、ゴールド回帰と脱ドル化の動向と要因を詳述します。

1. ゴールド回帰の本質:ローマ帝国末期とグリシャムの法則

現在のゴールドブームは、歴史上繰り返されてきた‌‌「悪貨が良貨を駆逐する」(悪化が良化を駆逐する)‌‌というグリシャムの法則が、現代の法定通貨(紙幣)を巡って発動している状況であると説明されています。

  • ‌ローマ帝国の末期との類似性:‌‌ 紀元2世紀から3世紀のローマ帝国の末期、巨大な軍事費を賄うために財政が悪化しました。当時、紙幣がないため、国家はコインに含まれる金銀の含有量を徐々に減らしました。
  • ‌価値の低い通貨の流通:‌‌ 価値のある古いコイン(良貨)を持つ人々はそれを貯蔵し、含有量が減った新しいコイン(悪貨)を先に使うようになりました。これにより、市場には価値のない悪貨だけが残り、インフレが発生しました。
  • ‌現代の適用(紙幣からの逃避):‌‌ 現在もこれと同様の現象が起きています。リーマンショック以降、世界中でお金が刷られすぎたことによる‌‌「金余り」‌‌が根底にあります。米国は38兆ドルの借金を抱え、利払いが税収の5分の1を占めるほど財政が悪化しています。
  • ‌法定通貨(紙幣)への不信:‌‌ 人々は、ドルや円といった‌‌紙幣が「価値のないただの紙くず」であり、いずれ崩壊する‌‌ことを遺伝子レベルで理解しています。そのため、価値が失われる前に、手元のドルを‌‌価値のある資産(金、銀、プラチナ、不動産、株など)‌‌へと交換しようとする本能が世界中で発動しています。これが株価や金価格を含むあらゆるリスク資産を冒頭させている根本的な原因です。

2. 脱ドル化の進行と中央銀行の動き

脱ドル化は進行中ですが、その背景には、米国の財政不安と、それに対する世界の中央銀行の対応があります。

  • ‌中央銀行による金購入の急増:‌‌ かつて米ドルや米債を外貨準備高としていた世界の中央銀行は、ドルの先行きに不安を抱き、‌‌ゴールドをものすごい勢いで買い集めています‌‌。
  • ‌購入量の倍増:‌‌ ここ3年間の中央銀行の金購入量は、その前の10年間の平均に比べて約‌‌倍‌‌になっています。
  • ‌歴史的な転換点:‌‌ 2023年は、世界の中央銀行が保有する‌‌ゴールドリザーブの金額残高が、米債(米国債)を超えました‌‌。これは1996年以来、30年ぶりのことです。この動きこそが「脱ドル」であると定義されています。
  • ‌将来的な展望:‌‌ 金価格は今後もさらに上がる可能性があり、金融システムにおける金の比率が‌‌少なくとも50%を超えるレベル‌‌までは上がる可能性があります。ただし、完全に金本位制に戻る(100%脱ドル化する)可能性は低いと見られています。

3. 米国の覇権とドルの価値の連動

地政学的な視点から見ると、脱ドル化は米国の軍事力と国際的な役割の衰退と密接に結びついています。

  • ‌ドルの担保は軍事力:‌‌ 米ドルの価値を保証し、国際的な信頼性を築いているのは、本質的に‌‌米国の軍事力‌‌です。米ドルは「空母、トマホークミサイル、F-35」によって裏付けられていると表現されています。
  • ‌世界の警察とドルの強さの表裏一体:‌‌ 米国が世界中の貿易ルートの安全を守る役割(世界の警察)を担うことで、各国は米国にお金を貸し(米債を購入)、米ドルを使用することで「年貢」を収めてきました。
  • ‌トランプ主義の危険性:‌‌ トランプ氏のような政治家が世界の警察としての役割を縮小し、各国に負担を求めたり、世界の舞台から撤退したりする戦略は、ドルの価値の担保を崩壊させる行為です。
  • ‌結論:‌‌ 「世界の警察をやめて強いドルを維持すること‌‌はありえない‌‌」。米国がその役割を放棄すればするほど、各国は米国に年貢を収める必要はないと判断し、‌‌米ドルへの依存を徐々に減らしていく‌‌という大きなトレンドが進行すると予測されています。

このように、ゴールド回帰や脱ドル化は、単なる金融的な動きではなく、米国の財政悪化と地政学的な役割の弱体化という、‌‌帝国末期に共通する構造的な病理‌‌がもたらす必然的な結果として捉えられています。


‌比喩:‌

現在のゴールド回帰と脱ドル化の動きは、大国の信頼という名の‌‌巨大なダムのひび割れ‌‌のようなものです。このダム(米ドルの覇権)は、長年の金融緩和(過剰な水)と、軍事力という名の基礎工事の弱体化(地政学的な後退)により、すでに構造的な弱さを抱えています。中央銀行や賢明な投資家たちが金を買っているのは、ダムが決壊する前に、‌‌紙のバケツ(法定通貨)に入った水から、金の容器(現物資産)に価値を移し替えている‌‌行為に他なりません。崩壊は緩やかかもしれませんが、転換点の流れはすでに始まっています。

米国の地政学的地位の動揺

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地政学から見る10年後の世界と経済という大きな文脈において、これらのソースは‌‌米国の地政学的地位の動揺‌‌について、主に地政学から見る10年後の世界と経済という大きな文脈において、これらのソースは‌‌米国の地政学的地位の動揺‌‌について、主に‌‌軍事的・財政的な裏付けの喪失‌‌、‌‌ポピュリズム(トランプ主義)によるソフトパワーの低下と外交の失敗‌‌、そして‌‌チェックアンドバランス機能の崩壊‌‌という、複合的な観点から論じています。

これらの動揺は、国際的なドルの地位の低下(脱ドル化)を加速させ、結果として中国などの競合国に有利な状況を生み出していると分析されています。

以下に、米国の地政学的地位の動揺に関する詳細を説明します。

1. ドルの信頼性の根幹(軍事力と財政)の動揺

米ドルの国際的な価値と米国の地位は、その軍事力と健全な財政に裏打ちされていますが、両面で大きな課題に直面しています。

  • ‌ドルの担保(軍事力)の放棄:‌‌ 米ドルの価値を保証し、国際的な信頼を築いているのは、本質的に‌‌米国の軍事力‌‌です。米ドルは「空母、トマホークミサイル、F-35」によって裏付けられていると表現されています。米国が「世界の警察」として貿易ルートの安全を守る役割を担うことで、各国は米国に年貢を納め(米債を購入)、米ドルを使用しているのです。
  • ‌「世界の警察」の役割放棄の危険性:‌‌ トランプ氏の戦略は、この「世界の警察」としての役割を縮小し、同盟国に負担を求めるものです。しかし、‌‌「世界の警察をやめて強いドルを維持することはありえない」‌‌と指摘されています。米国が役割を放棄すれば、各国は米国への年貢(米ドル依存)を減らしていく大きなトレンドが進むと予測されています。
  • ‌深刻な財政悪化:‌‌ 米国の財政は、もはや‌‌新しい戦争ができるレベルではない‌‌ほど悪化しています。米国は38兆ドルの借金を抱え、利払いが税収の5分の1を占める事態になりつつあります。もし米国が出費を伴うような戦争があれば、‌‌米国財政は崩壊するかもしれない‌‌という懸念が示されています。
  • ‌USA AIDなどの削減:‌‌ 米国の派遣を維持していたUSA AID(援助金)の予算がカットされたり、NASAや研究開発の予算もカットされたりしています。これは、長期的な国力維持に必要なソフトパワーや技術力の基盤を自ら弱体化させる行為であると見られています。

2. トランプ主義によるソフトパワーの低下と外交の失敗

ポピュリズムに基づくトランプ氏の外交スタイルは、米国の国際的な地位とソフトパワーを大きく損なっています。

  • ‌「トルコ化するアメリカ」:‌‌ 米国の政治が、あたかもトルコのエルドアン政権のように、ポピュリズムの政治によって、公職とビジネス上の利益相反(例:トランプファミリーのビジネス上の儲け)が公然と行われる状況になっていると警鐘が鳴らされています。
  • ‌「上から目線で失礼な外交スタイル」:‌‌ トランプ氏の外交スタイルは「上から目線で失礼な外交スタイル」であり、世界中がこれに対して「めちゃくちゃイラっとしてる」状態です。この世界のアメリカへの不満が、皮肉にも中国に有利に働いています。
  • ‌中国株の上昇:‌‌ トランプ氏が当選してからの動きとして、香港株や中国株が最も上昇しています。これは、コロナ禍で失われた中国のソフトパワーが、‌‌トランプ氏の外交によって大きく戻った‌‌結果だと分析されています。各国は「アメリカの企業に被害が出るんだったら、中国企業との商売を自由にしよう」という流れになっているためです。
  • ‌外交の「プロレス化」:‌‌ 外交が「静かなプロとプロのゲーム」ではなく、‌‌「プロレスみたいになっちゃった」‌‌ことで、権威が失われています。トランプ氏が100%関税をかけるなど大騒ぎをする政策をとると、相手国(中国など)も強い手段に出る必要が生じ、結果として米国側が譲歩したように世界に見えてしまいます。
  • ‌長期戦略の欠如:‌‌ 米国は本来、長期的なビジョン(30年、40年先)で動く国であり、優秀なエリートがブレインを担うはずですが、トランプ政権下では短期的な利益やディールベースで動いており、これはまるで‌‌「新興国みたい」‌‌な、本来の米国の姿ではないと批判されています。

3. チェックアンドバランス(抑制と均衡)機能の崩壊

米国の地政学的安定を支えてきた国内の政治システムも揺らいでいます。

  • ‌ディールで動く外交:‌‌ トランプ氏が「お金で解決できる問題」ではない安全保障や外交問題(例:ハイテク技術の敵国への輸出規制)をディールで緩和しようとする姿勢は、米国の外交の主軸からの逸脱であり、‌‌「ソ連にお金をくれたら技術を売ってもいいよ」というようなもので、普通ありえない‌‌と強く批判されています。
  • ‌同盟国への信頼低下:‌‌ トランプ氏は「ディール」のために台湾を譲り渡す可能性があるだけでなく、極端な場合、‌‌「アメリカにこれぐらい投資するから尖閣諸島は中国のものだ」‌‌というようなディールを中国とする可能性さえあると、日本の安全保障上の懸念が指摘されています。
  • ‌常識の逸脱:‌‌ 過去のウォーターゲート事件やロッキード事件では、些細なスキャンダルで大統領や政治家が辞任してきましたが、今のトランプ政権下では、家族のビジネス上の利益相反や、自身の名前で仮想通貨を出すなどの「大スキャンダル」が公然と行われ、‌‌「ウォーターゲートなんてトランプが毎日やるようなもん」‌‌と揶揄されるほど、常識的な抑制が外れてしまっている状況です。

これらの要因が複合的に作用し、米国の地位は揺らいでいます。しかしながら、米国には「極めて優秀な人も多い」ため、危機的な状況から「戻す能力」「復元力」があることも同時に指摘されています。


‌要約の比喩:‌

現在の米国の地政学的地位の動揺は、かつて世界最強を誇った‌‌巨大な空母が、船底に亀裂が入り、舵取りを船長(指導者)が気まぐれに回している状態‌‌に例えられます。船底の亀裂(財政悪化と軍事力担保の弱体化)は構造的な問題であり、気まぐれな舵取り(トランプ主義)は同盟国との連携を乱し、国際的な信頼(ソフトパワー)を低下させています。このため、他の船(中国など)は、この巨大な空母に頼らず、自国の航路を進み始めています。

米中対立と中国の動向

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地政学から見る10年後の世界と経済という文脈において、これらのソースが‌‌米中対立と中国の動向‌‌について述べているのは、‌‌米国の地政学的・外交的退行が、短期的には中国に有利な状況を生み出している‌‌という点です。しかし同時に、中国自体も‌‌内部的な経済危機と政治的不安定さ‌‌という深刻な問題を抱えているという、両国の不安定性を強調しています。

以下に、米中対立における中国の動向と要因を詳細に説明します。

1. トランプ外交の失敗と中国のソフトパワー回復

米国の外交姿勢と政治的混乱は、皮肉にも中国の国際的な地位回復に貢献していると分析されています。

  • ‌中国株の冒頭:‌‌ トランプ氏が当選してからの世界の動きを見ると、‌‌香港株や中国株が最も上がっている‌‌ことが指摘されています。
  • ‌ソフトパワーの回復:‌‌ この中国株の上昇は、中国がコロナ禍で失ったソフトパワーが、‌‌トランプ氏のこの1年間の外交によって「だいぶ戻った」‌‌ことに起因します。
  • ‌世界の米国への不満:‌‌ 世界中の国々が、トランプ氏の‌‌「上から目線で失礼な外交スタイル」‌‌に対して「めちゃくちゃイラっとしている」ためです。
  • ‌具体的な恩恵:‌‌ その結果、アメリカの企業に被害が出るならば、‌‌中国企業とのビジネスを自由にしよう‌‌という流れが生まれています。具体例として、カナダやヨーロッパが中国の電気自動車(EV)への関税を撤廃しようとする動きがあり、これはテスラ(米国企業)にダメージを与える可能性があります。
  • ‌外交の「プロレス化」:‌‌ バイデン政権下では、半導体規制のように静かに、かつ効果的に中国にダメージを与えていましたが、トランプ氏のようなポピュリストは「100%関税をかける」など大騒ぎをするため、相手(中国)も強い手段に出る必要が生じます。これにより、中国が持っている‌‌レアアース(希少資源)のカードの強さ‌‌が世界に見えてしまい、米国が譲歩すると、世界は「アメリカが中国に屈した」と認識し、結果として中国の強さが浮き彫りになってしまいます。

2. 脱ドル化と米国依存度の低下

中国は、米国の財政不安と外交姿勢を受けて、脱ドル化の動きを主導しています。

  • ‌米ドル依存の軽減:‌‌ 中国は、米ドルに取って代わる基軸通貨になることを望んでいませんが、‌‌米ドルへの依存、および米国が支配する国際決済システム(SWIFTや銀行システム)への依存を減らしたい‌‌と考えています。
  • ‌地政学的な動機:‌‌ 米国が「世界の警察」としての役割を放棄すれば、世界各国は米国に「年貢」(米ドルや米債への依存)を納める必要はないと判断します。このトレンドは、米国が世界の警察をやめるほど加速し、結果的に米ドルの影響力は徐々に減っていくと予測されています。

3. 台湾有事のリスクと「ディール」の危険性

米国の不安定な外交は、最もデリケートな地政学的対立である台湾問題にも影響を及ぼしています。

  • ‌台湾有事の可能性:‌‌ 台湾有事のシナリオは、確率が低いとしても‌‌今後10年で十分あり得る‌‌とされています。
  • ‌トランプ政権下のリスク:‌‌ もし中国がアクションを起こすとしたら、トランプ政権下の方が都合がよいと考えられています。なぜなら、トランプ氏が安全保障問題においても‌‌「ディール」(取引)‌‌に応じる可能性があるからです。
  • ‌同盟国への脅威:‌‌ トランプ氏は、ディールによって台湾を譲り渡す可能性があるだけでなく、極端なケースでは、‌‌「アメリカにこれぐらい投資するから尖閣諸島は中国のものだ」‌‌というディールを中国とする可能性さえあると、日本の安全保障上の最大の懸念として挙げられています。
  • ‌ハイテク技術のディール:‌‌ トランプ政権は、本来、安全保障上、敵国に渡してはならないハイテク技術(AI半導体チップなど)についても、「中国向けの売上の15%を国に落とせば許可する」といった‌‌金銭的なディール‌‌を持ちかけており、これは米国の外交の主軸から逸脱していると強く批判されています。

4. 中国の内部問題(構造的な弱点)

米中対立において中国が短期的に優位に見える一方で、中国は中長期的に国力を衰退させる可能性のある構造的な問題を抱えています。

  • ‌経済のデフレ化:‌‌ 中国は、世界中がインフレに直面する中で、‌‌国内でデフレが発生‌‌しており、これは「日本の失われた30年」のようなデフレ時代に突入している可能性を示唆しています。
  • ‌バブルの崩壊:‌‌ 中国経済のバブルが崩壊しつつあり、それに加えて‌‌人口動態の悪化や若年層の失業率の高さ‌‌という深刻な問題に直面しています。
  • ‌政治的な不安定化:‌‌ 習近平氏が、毛沢東以降の中国の特徴であった組織的なリーダーシップ(強いリーダーではなく組織で戦う特徴)を崩し、権力を集中させたことは、中国国内で不満を生み出し、‌‌政治的な不安定化‌‌につながる可能性があると指摘されています。

‌結論として‌‌、米中対立は、かつての超大国同士の静かな競争ではなく、‌‌米国の内政と外交の混乱‌‌が加速剤となり、中国に短期的な優位性をもたらしている‌‌「危うい均衡」‌‌の上に成り立っています。しかし、両国ともに内部に不安定要素を抱えており、特に中国は経済的なバブル崩壊という巨大な課題に直面しているため、今後10年間は非常に不安定で予測不可能なフェーズに入ると考えられています。

台湾有事と日本の取るべき道

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地政学から見る10年後の世界と経済という大きな文脈において、これらのソースが‌‌台湾有事と日本の取るべき道‌‌について述べている主張は、以下の二点に集約されます。

  1. ‌台湾有事は「あり得る」シナリオであり、特にトランプ政権下では「ディール」による譲歩のリスクが高まる。‌
  2. ‌日本が取るべき道は、米国への過度な依存から脱却し、独自に強固な防衛力を築き、「独りんご」となることである。‌

以下に、それぞれの側面について詳細を説明します。

1. 台湾有事のリスクとその要因

台湾有事は、今後10年間で‌‌「十分あり得る」‌‌シナリオとして想定されています。このリスクを高める最大の要因は、米国の政治的混乱、特にトランプ氏の外交姿勢にあります。

  • ‌トランプ政権下のディールの危険性:‌‌ 中国が台湾に対して何らかのアクションを起こす場合、‌‌トランプ政権下の方が都合がよい‌‌と考えられています。その理由は、トランプ氏が安全保障問題においても‌‌ディール(取引)‌‌に応じる可能性があるからです。
  • ‌「お金で解決」の常識からの逸脱:‌‌ トランプ氏の頭の中には、「大国(中国など)はしょうがないだろう」「強いものが弱いものをこうするのは自然の摂理だ」という考えがあるかもしれないと推測されています。彼は、ウクライナ戦争においてもウクライナをいじめるような態度を取っており、この姿勢を台湾に対しても繰り返す可能性が否定できません。
  • ‌同盟国譲歩のリスク:‌‌ ディールによって台湾を中国に譲る可能性があるだけでなく、極端なケースとして、‌‌「アメリカにこれぐらい投資するから尖閣諸島は中国のものだ」‌‌というディールを中国とする可能性さえあると、日本の安全保障上の最大の懸念として指摘されています。これは、本来、お金や金銭的なものではなく、道義的・イデオロギー的に解決すべき外交の主軸から逸脱した行動だと強く批判されています。

2. 日本が取るべき道:「独りんご」戦略

台湾有事のリスクと、米国の地政学的地位の動揺(チェックアンドバランス機能の崩壊、外交の不安定化)を踏まえ、日本が取るべき道は、‌‌「自立的な防衛力の構築」‌‌であると結論づけられています。

  • ‌独りんご化の必要性:‌‌ 日本は、過度にアメリカに依存するのではなく、「あとはもう‌‌自分で防衛力を持つしかない‌‌」状況にあります。具体的には、‌‌「日本を独りんごにするしかない」‌‌という戦略が提示されています。
  • ‌「独りんご」戦略の目的:‌‌ 日本を「独りんご」(誰も手出しできない、孤立した硬い存在)にすることで、中国に対して「私たちには手出すな」というメッセージを送ることができます。
  • ‌恐怖の解消:‌‌ 今、日本が抱える最大の恐怖は、‌‌「アメリカがいなくなったら中国に侵略されるかもしれない」‌‌というものです。このリスクがゼロではないことを考えると、日本が自国を独立して防衛できる状態にすれば、たとえアメリカが急速に衰退して力がなくなったとしても、中国は日本列島に手を出してこないだろうと予測されています。
  • ‌防衛力強化の緊急性:‌‌ アメリカが非常に不安定な状況にあり、今まではなかったようなことが公然と行われ、ディールによって同盟国を譲渡するリスクが高まっているため、日本は‌‌「自分たちの防衛力強化するしかない」‌‌状況にあるとされています。

‌要点まとめの比喩:‌

台湾有事とそれを取り巻く状況は、‌‌不安定な崖っぷちに立つ「同盟国という綱渡りサーカス」‌‌に例えられます。日本はこれまで、強力な綱(米国)に依存してきましたが、その綱を握る調教師(トランプ主義)が気まぐれにディールを持ちかけるリスクが出てきました。日本がこの不安定さから身を守るためには、‌‌綱から降りて、自ら強固な要塞(独りんご)を築き、いかなる嵐にも耐えられる独立した存在となる‌‌ことが、今後10年間で最も重要な戦略的課題であるとソースは示唆しています。

カネと文明の進化

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地政学から見る10年後の世界と経済という大きな文脈において、これらのソースが‌‌お金と文明の進化‌‌について言おうとしている核心地政学から見る10年後の世界と経済という大きな文脈において、これらのソースが‌‌お金と文明の進化‌‌について言おうとしている核心は、‌‌お金(特に法定通貨である紙幣)は人類の文明を築いた最大の発明であり、その進化のサイクルは、今、歴史的な転換期(ゴールド回帰)を迎えている‌‌という点です。

この文脈での「お金と文明の進化」の議論は、現在の地政学的・経済的危機が、過去の帝国の衰退期に繰り返されてきた‌‌「お金の価値の崩壊と、それによるリスク資産への逃避」‌‌という現象の一部であることを示唆しています。

以下に詳細を説明します。

1. お金は人類文明の「最大の発明」である

お金の概念の発明こそが、人類が繁栄し、現在の文明を築き上げる上での‌‌最大の発明‌‌であったと強調されています。

  • ‌文明の根幹:‌‌ お金という概念があったからこそ、私たちは今日まで来ることができました。文明の仕組みそのものの根底には、お金の仕組みが存在しています。
  • ‌繁栄と破壊のサイクル:‌‌ お金は、人間文明の過去も現在も‌‌繁栄を作り、新しいサイクルを作り、そして今度は崩壊させる‌‌という役割を果たしています。

2. お金の進化の歴史と加速するスピード

お金の形態は、歴史を通じて進化し続けており、特に近年、その進化のスピードが加速しています。

お金の形態おおよその出現時期進化のスピード
コイン(金銭代替品含む)2000〜3000年ほど前遅い
紙幣約500年ほど前遅い
クレジットカード1950年代(約70〜80年前)中程度
ネットバンキング1999年(約26年前)速い
仮想通貨(ビットコイン)2010〜2011年(約15年前)非常に速い
  • ‌進化の加速:‌‌ コインから紙幣、クレジットカード、ネットバンキング、そして仮想通貨へと、次に進むスピードは短くなり、‌‌進化のインターバルがものすごく早くなっている‌‌と指摘されています。
  • ‌現在の紙幣の位置づけ:‌‌ 我々が今当たり前だと思っている紙幣(ドルや円など)も、‌‌進化の1過程‌‌に過ぎず、またそれが一部戻ったり、さらに変わったりすることは十分あり得る、つまり‌‌恒久的なものではない‌‌と認識されています。

3. 文明の崩壊と現在の「ゴールド回帰」の本質

現在のゴールド(金)やリスク資産の急騰は、単なる市場のトレンドではなく、お金(紙幣)の価値に対する信頼の崩壊、すなわち‌‌「グリシャムの法則」‌‌の発動として捉えられています。

  • ‌ローマ帝国末期との類似:‌‌ 紀元2世紀から3世紀にかけてローマ帝国の財政が悪化し、軍事費を賄うためにコインの金銀含有量(良貨)を減らした結果、人々は価値の低いコイン(悪貨)を先に使い、良貨を貯蔵しました。これにより、市場には悪貨が残り、インフレが発生し、文明が衰退に向かいました。
  • ‌現代の「悪貨」:法定通貨:‌‌ 現在、世界中で発生しているのは、これと全く同じ現象です。リーマンショック以降、世界中でお金を刷りすぎた‌‌「金余り」‌‌が原因となり、米国をはじめとする各国が巨額の借金を抱え、法定通貨(紙幣)の価値が希薄化しています。
  • ‌人類の本能的行動:‌‌ 人々は、ドルや円といった‌‌紙幣が「価値のないただの紙くず」であり、そのうち崩壊する‌‌ことを、何千年の歴史の中で組み込まれた‌‌遺伝子レベルで理解‌‌しています。
  • ‌リスク資産への逃避:‌‌ この本能が発動し、価値が失われる前に、手元にある法定通貨を‌‌価値のある資産(金、銀、プラチナ、不動産、株など)‌‌へと交換しようとする行動が世界中で起きているのです。株価や金価格の冒頭は、この‌‌「金からの逃避」‌‌という文明的な危機意識が根底にあると分析されています。

したがって、これらのソースは、お金の進化のプロセスが現在、‌‌グローバルな基軸通貨(ドル)への信頼の喪失‌‌という地政学的な危機に直面しており、その結果として、人々がより安定した資産である金へと回帰するという、‌‌文明のサイクルが転換点にある‌‌ことを示唆しているのです。


‌例え話:‌

お金と文明の関係は、‌‌「文明という名の巨大な樹木を育てる水」‌‌に例えられます。お金(水)は文明(樹木)を繁栄させるために不可欠ですが、その水が‌‌紙幣(貯水槽の紙の壁)‌‌という形で貯えられすぎると、その紙の壁自体が崩壊の危機に瀕します。人々が今、金(恒久的な石の貯水槽)に価値を移しているのは、‌‌「水(お金)そのものがなくなるのではない、それを一時的に貯めている容器(紙幣)が壊れる」‌‌という歴史的な教訓に基づいた、自己防衛的な行動なのです。

情報源

地政学から見る10年後の世界

動画(47:49)

https://www.youtube.com/watch?v=lfqa0OQy_9I

334,900 views 2025/11/04

(2025-11-05)